金利がここまで下がった以上、先進国政府は日本と同レベルまで借金を増やしても問題は起こらない──。有力な経済学者の間で、このような主張を唱える向きが増えている。日本の政府債務残高はどれだけ小さく数字をはじいても国内総生産(GDP)比で150%を超える。確かに財政拡大余地のある国もあるだろう。だが昨今の財政拡張論は往々にして、物事が裏目に出たときのリスクを軽んじるか、見落としている。
第1に高齢化で財政負担が重くなるリスクが軽視されている。社会保障制度は一般に、金利をつけて払い戻すと約束し人々から税や保険料を集めている点で、政府にとっては借金に近い。将来の年金受給者に対する政府債務は、いわば弁済優先度の低い劣後債だ。だが、こうした劣後債的債務は、国債による通常の債務(弁済が優先されるシニア債に相当)と比べても相当な重みがある(編集部注:劣後債は高リスクな分、利息も高い)。
事実、経済協力開発機構(OECD)加盟国は現在、平均してGDPの8%を老齢年金の支払いに充てている。イタリアとギリシャに至っては何と16%だ。将来的には税収の多くが年金の支払いに消え、国債の利払い・償還原資が食い潰されていくのは目に見えている。もちろん、年金を徐々にカットするなど対策を試みている国は少なくないが、低成長の中で高齢化が進んでいることを考えれば、課題は山積みといっていい。
第2に国債増発のリスクを甘くみる論者は「金融危機が起こっても金利は上がらない」と無条件に決めつけている。なるほど2008年のリーマンショック後に国債金利は確かに急落した。しかし、今後も同じような現象が繰り返されると思い込んでいるようでは危うい。例えば、気候変動が想定外の速度で進み、世界に危機が広がる可能性は容易に想像がつく。サイバー戦争が危機の引き金になる展開もありえる。そして、このような危機が現出したときに経済成長や金利にどんな影響が出るかは完全に未知の領域なのだ。
この記事は有料会員限定です
残り 625文字
