読み返したい!『経済思想』
市場とその秩序、政府の役割、信用、生産と消費、そして自由と社会制度といった私たちの暮らしの枠組みについて、その概念が形成された歴史経過を踏まえながら簡潔に、そして見事に描いた本は『経済思想』をおいてほかにない、と思っている。
評者にとっての「座右の書」は1〜2冊ではとどまらない。高坂正堯の『世界史の中から考える』をはじめとした一連の時論。あるいは北岡伸一の『清沢洌』、大著の『門戸開放政策と日本』といった政治系の本がそれに当たる。その一方で、小池和男、藤本隆宏といった達人による、働く人たちの経済学や産業論への愛着も強い。
そうした中から、悩みながらも本書を選んだ理由は、評者にとって著者の本は、いつも経済と政治を架橋してくれるからである。その2つの領域は分離できないのだ。
もちろん『自由の条件』や『自由と秩序』なども良書だが、本書は人間の知識の不完全さを前提として、あまたの古典を読み解きながら私たちがものを考える手がかりを与えてくれるところがいい。
評者は近年のインダストリー4.0、IoT、AIなどの狂騒と距離を置いているが、その理由は、人間の目的や行動は役所やシンクタンクや特定のメーカーの作為的なスローガンで決定されることはないからである。真理に近づくには、著者が指摘するように、無数の角度から「知識の扉」への接近の機会を持ち続けることである。人間の行動や思考には非合理的で無意識的な要素が多元的にあるものだからだ。
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