INDEX
私の専門である認知科学、認知脳科学から見ると、認知症とは脳機能の不全である。特に、大脳の機能不全が健全な生活を阻害していると考えられている。
したがって、失われた大脳の機能を何らかの方法で活性化させることができれば、認知症という病気自体は内在していたとしても、生活の質は取り戻されるのではないか。こうした考え方の下、私たちは認知症の症状改善の研究を行ってきた。
具体的なアプローチが、「脳を使わせる」という学習療法だ。単純な読み書き、計算などの記号処理をできるだけ素早く行うことで、大脳の前頭前野の働きを向上させられる。それは認知症の人に対しても有効なことを私たちは発見した。
多くの人を対象に生活介入実験をしたところ、どの年齢層であっても、読み書き・計算によるトレーニングを行った人は、そうでない人よりも認知能力が顕著に伸びていた。驚くべきことに、脳のMRI(磁気共鳴断層撮影)を行ったところ、前頭前野を中心に、学習療法を行った人は脳の体積が増えていた。
認知症患者への介入では75%程度の人に症状の改善が見られた。寝たきりだったアルツハイマー病の人が、車いすで家に帰れるようになるほどの成果が表れた事例もあった。
効果は科学的に繰り返し証明
この介入研究の成果は2005年に論文として発表した。米国のアルツハイマー病の人を対象にした研究でも、同様の認知機能改善の効果が見られ、15年に論文として発表している。
一昨年、国内の第三者が効果を検証したところ、認知症高齢者で学習療法を実施した人とそうでない人とでは、1年後の要介護度に「1」近い差が生じ、年間で平均20万円近い介護費用の削減につながることが明らかになった。
代表的な認知症薬であるアリセプトは進行を半年程度遅らせるにすぎない。頼れる薬がまだない中で、これほど予防・改善の効果が科学的に証明された非薬物療法は、学習療法のほかにはないと思う。
この記事は会員限定です
残り 745文字
