1987年2月9日のNTT(日本電信電話)上場は、それまで株投資に縁のなかった個人を巻き込んで、国民的な株ブームのきっかけとなった。
結婚資金を当て込んだ女性。退職金をつぎ込んだ中年男性。株の取得申し込みに必要だった本人確認用の住民票を、従業員から家族まで40人分かき集めて申し込んだ飲食店経営者──。当時の新聞・雑誌はそんな熱狂ぶりを伝える。
上場前年の86年10月29日に決まった売り出し価格は1株119万7000円。1株当たり純資産21万円のNTTは、アナリストの事前予測では60万〜80万円を妥当とする意見が大勢だった。大蔵省(当時)でNTT株の売却プロジェクトリーダーを務めていた松川隆志氏も、売り出し価格の高さに不安を感じた。
「入札価格に基づいて決まった価格なのだから、これで腹をくくるしかない」(松川氏)。売れ残った分は国に返却される売り出し方式を採用していた。
当時の大蔵省の関心は、高値で売ることよりも、国有株放出をいかに公平にやり遂げるかにあった。「こんな大量の非公開株売却は、それ自体が利権であり、下手な売り方をしたらたいへんな疑念を招くおそれがあった」(松川氏)。
だが証券業界の関心は違った。NTT株を証券ブームの呼び水にしようと、こんな前のめりな営業電話をかけた。「売却代金は今や重要な国債償還財源。政府が高株価政策を取るのは間違いない」。
類似銘柄と目されていた東京電力の株価が急上昇を続けており、NTTが高値をつける空気も受け入れられた。底流には野村証券が仕掛けた、円高・金融緩和・原油安の恩恵がある企業に買いを集める「トリプルメリット相場」があった。
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