ドローンの応用分野は空撮に限らない。DJIが席巻する「撮る」セグメント以外にも、「まく」「測る」「運ぶ」といった用途がある。DJIは民間用途での世界展開を優先するため、あえて軍事・警察用途については製品開発も関連部門への納品も避けている。この空白を埋めるように、中国にはDJIとは異なるノウハウを蓄積したドローン企業が生まれている。
筆頭はAEE(一電科技)。公安・警察向けのドローンを展開し、従業員約1500人のうち650人が研究開発部門に属する。ドローン企業としては中国でDJIに次ぐ二番手の規模だ。同社の主力モデルである警察向けドローンは、空域を設定することで自動航行・巡視を行い、カメラで撮影した映像から複数の対象をとらえる。スポットライトや拡声器、通信モジュールを搭載して飛ばすことが可能で、国内だけでなく、米・仏への納入実績がある。飛行しながら有線充電が可能であるため長時間飛行も実現しており、警備向けに必要とされる条件をパッケージ化した製品となっている。
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DJIの黎明期を担った盧致輝氏が創業したMMC(科比特科技)も水素燃料電池を搭載し、過酷な環境での飛行を実現するドローンを発売した。消防現場やインフラ点検分野向けのハードウエアとして、地位の確保を目指している。
深センの周囲、珠江デルタ(広東省・珠江の河口に広がる三角地帯)にも有力企業は広がる。Ehang(広州億航智能技術)の一人乗りドローンには、実用化を疑問視する声も大きかった。だが今年に入り、ドバイでドローン・タクシーとしての試験的運用が決まった。一人乗りの完全自動運転のドローンである。Xエアクラフト(広州極飛電子科技)は農業用に特化。高い精度で位置を捕捉し、自動操縦による農薬散布を実現した。日本法人もある。
これらの企業を合わせると、珠江デルタ地域では年間数十モデルの新型ドローンが市場に投入されているようだ。
中国では、北京、南京、内陸の航空系大学でドローンの基礎研究を行い、深センを中心とする珠江デルタ地域と北京でハード・ソフト開発が進展し、そして新疆ウイグル自治区や河南省といった広大な農地を持つ地域で実機運用テストを行う。立ち上がってまだ数年のドローン産業であるが、中国ではすでに基礎研究、開発、テストという循環が出来上がりつつある。
DJIに続く新興国発の新興産業
先端分野での最上位を占める企業が深センから一社でも登場した意味は大きい。既存の電子関連製造業の集積を背景に、深センには中国全土から理系大学を卒業したエンジニアが集まる構図が出来上がっているからだ。極端に若年層が多く、大胆にたとえるなら人口1100万人の渋谷であり、秋葉原といえる。そして彼らは起業家予備軍だ。
現時点では、DJIの成功は中国の有識者も例外的と受け止めている。だがDJIを筆頭とする新世代の企業群は、いわゆる「中国企業像」を乗り越える事業を展開している。
今後はDJI創業者のフランク・ワン氏の実績や発言に刺激された若者がさらに新しい市場を目指し、「新興国発の新興産業」というべき事例を積み上げそうだ。政策による創業バブルの側面もある深センだが、技術者の野心に燃える眼を見ると、バブルを超えた何かがにおう街であると筆者は確信する。(伊藤亜聖)






















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