「見てもないことをいいかげんに言うんじゃない、とよく怒られましたよ」。豊田章男社長は生産現場で働いていた頃をこう振り返る。
トヨタ自動車に脈々と受け継がれているのが「現地現物」の精神だ。現場で実物を見ることで物事の本質を見極め、素早く決断し、全力で実行することを指す。
豊田社長が多くを学んだのが、入社7年目に配属された生産調査部だ。いわゆる「トヨタ生産方式(TPS)」の社内外への指導を担当する部署である。ここで豊田社長は、後に技術者の最高位とされる技監に就く林南八氏(現顧問)の直属の部下として、トヨタの現場に根付く思想をたたき込まれた。
その林氏が師事したのが、大野耐一・元副社長。TPSの生みの親だ。必要なものを、必要なときに、必要なだけ供給するという「ジャスト・イン・タイム」の基本形を作り上げ、モノづくりの精神の礎を築いた。
TPSの根底に流れるのは「徹底したムダの排除」という思想だ。在庫、作業、不良など、あらゆるものがムダとなりうる。ムダがムダを生んで積み重なれば、経営そのものを圧迫する。今のトヨタの高収益は、終わりのない現場の「カイゼン」に裏打ちされている。
トヨタグループ創始者の豊田佐吉が発明した自動織機には不具合が発生すると自動で停止する機能があり、不良や手直しによる損失を未然に防ぐという考えが取り入れられていた。創業当初から基本は変わらない。
林氏は大野氏の薫陶を受けた最後の世代だった。そして豊田社長は林氏の教えを受けた。人から人へ、世代を超えて、TPSが現場の営みを通して伝えられている。
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