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危機管理の要諦はガス抜きにあり 大切なのは危機の封じ込めとガス抜きのバランス

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【今週の眼】齊藤 誠 一橋大学大学院教授
さいとう・まこと●1960年名古屋市生まれ。83年京都大学経済学部卒業、住友信託銀行入社。92年米マサチューセッツ工科大学Ph.D.。カナダ・ブリティッシュコロンビア大学経済学部助教授などを経て2001年から現職。専攻はマクロ経済学。近著に『震災復興の政治経済学』。(撮影:尾形文繁)

今、法学研究者とともに、非常時における対応に関して研究を行っている。その共同研究で私は、非常時における行動指針や規範となるべき危機対応マニュアルの役割について、福島第一原発事故を事例として研究に取り組んできた。

原発施設の危機対応マニュアルは事故時運転操作手順書(手順書)と呼ばれている。手順書は、事象ベース、徴候ベース、シビアアクシデントの三つに分かれている。

事象ベースの手順書は事故原因が特定できるケースを、シビアアクシデントの手順書は炉心損傷に至ったケースをそれぞれ対象としている。

一方、徴候ベースの手順書は、複数の原因が考えられる事故で事態が進行しているケースにおいて、原子炉で実際に起きている現象の程度に応じて手順が定められている。

この徴候ベースの手順書がユニークなのは、「危機封じ込め」一辺倒のマニュアルでない点である。大きな危機は是が非でも封じ込める必要があるが、小さな危機は施設内外に開放して「ガス抜きする」という発想も兼ね備えている。

具体的には、圧力容器にある炉心の冷却が思うようにいかない場合には、安全弁で蒸気を格納容器底部にあるプール(圧力抑制室プール)に逃がして、圧力容器の圧力を低下させる。そうすると、海水も使える低圧ポンプを稼働させることができ、炉心に注水し持続的に冷却することができる。こうした一連の措置は減圧注水と呼ばれている。

減圧注水を進めても、格納容器の圧力がなお高まる場合は、圧力抑制室プールで放射性物質を十分に濾過したうえで外部にベント(放出)する。

すなわち、徴候ベースの手順書には、放射性物質を何が何でも圧力容器の中に封じ込めるのではなく、圧力抑制室プールに逃がし、さらにはプールで濾過して外部にベントするというガス抜きで危機を制御する発想がある。

ただしガス抜き的な対応は、格納容器の圧力や圧力抑制室プールの水温が比較的低い段階で、早期に実行する必要がある。

しかし、事故当時、現場も本社も規制当局も、徴候ベースの手順書から大きく逸脱した事故対応を取った。電源も水源も確保が困難であった高圧注水で原子炉を冷却しようとし、早期の減圧注水の機会を逸していきなりベント準備に入った。

東京電力と規制当局は、2011年3月14日未明、2号機に対して、徴候ベースの手順書に近い対応をようやく取り始めた。しかし、格納容器の圧力も圧力抑制室プールの水温もすでに高くなりすぎていて、減圧注水もベントもうまくいかなかった。

その結果、三つの原子炉はすべて圧力容器や格納容器が著しく破損し、大量の放射性物質が大気に、地下水に、海洋に、放出された。

なぜ徴候ベースの手順書にあった「ガス抜き」の発想を生かすことができなかったのか。おそらく日本の危機管理の考え方は、「強固な設備で危機を封じ込められる」と過信していて、設備面(ハード)でもマニュアル面(ソフト)でも、「小さな危機をガス抜きする」という発想が完全に欠落していたからであろう。

危機の封じ込めとガス抜きのバランスは、金融危機管理を含めて、あらゆる危機管理の基本である。

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