18世紀に起こった世界的な経済の繁栄は、欧米諸国による海賊の撃退がもたらしたといっても過言ではない。海上保険料は急落し、船に大砲を載せる必要もなくなった。つまり輸送コストが激減したのだ。綿をはじめとする米国からの安価な製品が、英国などで産業革命の起爆剤となった。
しかし米国は今、海賊対策に多額のカネを費やした時代に戻っているようにも見える。今度の対象はテロリズムだ。9・11同時多発テロ以降、諜報活動や空港での検査強化、商業ビルでの警備などに、毎年何百億ドルと費やしてきたわけだが、本当にその価値があるのかという議論が今、米国で盛り上がっている。
米国のシンクタンク、ケイトー研究所のシニアフェローで『テロと安全保障とカネ:国家安全保障のリスク、メリット、コスト』(未邦訳)の著者、ジョン・ミューラー氏もこの議論に目をつけた。彼は、対テロ活動の費用対効果を分析する政府機関がないことも指摘している。
ミューラー氏は9・11発生直後の2002~11年の10年間で、米国土安全保障省(DHS)の対テロ費用が1.1兆ドル(約130兆円)も膨らんだと主張する。このおカネを、老朽化したインフラの修繕や犯罪対策、大学生向けの奨学金、がん研究や肥満防止プログラムに使うこともできただろう。この金額は、同じ10年間での米国GDP(国内総生産)合計126兆ドルの0.9%に当たる。これを多いと見るか、少ないと見るか。
一方、米議会調査局(CRS)によると、DHSの総予算のうち約42%はテロ対策とは何の関係もないという。DHSには、ハリケーンなどの自然災害に対応する連邦緊急事態管理局や、中南米からの不法入国や麻薬への対策などを担う税関・国境取締局も含まれるからだ。CRSが正しければ、先の10年間の対テロ費用はさらに少なくなる。小さな政府の重要性を強調するケイトー研究所の一員であるためか、ミューラー氏の主張にはやや誇張がある。
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