武蔵野大学 工学部開設 総合大学として第2ステージへ
データサイエンティストの育成が急務
基調講演に続いて行われたパネルディスカッションでは、最初に3人のパネリストが自己紹介を兼ねてそれぞれの研究テーマなどについて語った。
30年ほど前から暗号とセキュリティの研究をしている岡本氏は、「現在は第3次産業革命の真っただ中にあり、そのベースになっているのが数理的知見」という見解を披露。「かつて数理的知見は特許として認められなかったが、最近は数学的アルゴリズムが特許として認められるようになり、暗号も特許になる」とした。そして「ネットワークシステムはデジタル情報をベースにしたバーチャルなものであり、バーチャルシステムに役立つ理論こそが、数理科学や数学である」と結んだ。
医学生物統計学が専門の西川氏は、データサイエンティストの育成と医学生物統計学について解説。「日本は戦後、米国から統計的品質管理を学び、日本流にアレンジして活用した。それが高度成長につながり、逆に日本流の品質管理を今度は米国が学ぶという状況が起きた」と紹介した。また、武蔵野大学が「数理工学コンテスト」を実施していることに触れ、データサイエンティスト育成の意義を強調。統計的手法の活用が、医療領域にも貢献していると語った。
最近はテレビ出演などメディアへの登場も多い西成氏は、数学や物理の基礎を使って現象を解析する現象数理が専門。「現在、さまざまな現象に対して数理的知見が求められており、大きな可能性がある」と指摘。たとえば、渋滞を0と1で抽象化することにより、その解消法を研究していると紹介した。そして実際に車を使った実験で、渋滞を起こさない走り方を立証。さらに、一つの部屋に大勢の人間がいるとき、出口付近に障害物を置いたほうが、より早く全員が部屋から出られることも明かし、会場を驚かせた。
現場を知らずに数理モデルを使っても
うまくいかない
この後、武蔵野大学教授の薩摩氏がコーディネーターを務めてディスカッションが行われ、岡本氏は「コンピュータと通信が世の中を変えた。そのベースとなるのがデジタル情報だ。自分たちの研究グループのメンバーは半数以上が大学の数学科で数学を学んだが、数学的教育を受けた人は応用がきく。武蔵野大学の工学部では、論理的思考ができる訓練を重視してほしい」などと語った。
また西川氏は「ビッグデータを分析した結果の信頼性も考えないといけない。ビッグデータをどれくらい信用してどういう分野で使うか、教育の中で触れていただければ」とコメント。「武蔵野大学では、各学部の先生や学生が共同で研究する分野横断型の取り組みと、基礎的な教育をしっかりして足腰を鍛えてほしい」と述べた。
西成氏は「実際にはできないことも、コンピュータ上で仮想的に実験することができる。そのためにはモデリングがしっかりしていないといけない。しかし、現場を知らないで数理モデルを使った研究をしてもうまくいかない。工学部では、いろいろな企業を回り、現場を見る実習を勧めたい」と提言した。
最後に会場からの質問に答える形で薩摩氏が「大切なのは基礎をしっかりと身に付けること、そしていろいろ試みて失敗すること」と述べ、「数理工学科を起点として産官学連携にも積極的に取り組んでいきたい」という決意表明をし、シンポジウムは盛況のうちに幕を降ろした。