DX後進国・日本と世界の「致命的な差」

「変化」を阻むのは、日本企業の構造的問題

日本企業のグローバル競争力の低下に歯止めがかからない。IMDビジネススクールが作成する「世界競争力年鑑 2020年版」によると、日本は過去最低の34位に落ち込んだ。起死回生の一手となりうるのが、抜本的なDXやAIなどの最新テクノロジーの活用だ。日本企業の課題や大企業とスタートアップ企業の効果的な協業のあり方について、キーパーソンに語ってもらった。

こちらの内容は、エヌビディアが主催するオンラインイベント、「GTC21」にて実施したパネルディスカッションをベースとし、再構成したものです。

日本企業の年功序列が「変化」を阻む

――現在日本はDXとグローバル競争力の低下が著しく叫ばれています。この点についてどうお考えですか?

東京大学大学院
教授
松尾 豊
2002年東京大学大学院博士課程修了。博士(工学)。2007年より、東京大学大学院工学系研究科准教授。2019年より同教授。専門分野は、人工知能、深層学習、ウェブマイニング。2017年より日本ディープラーニング協会理事長。2019年よりソフトバンクグループ社外取締役。2020年より人工知能学会、情報処理学会理事

松尾 「DX」といえば、先日ある会議で面白い話になりました。「DXするならまず港だ。シンガポールは、船から荷物を降ろす工程がかなり自動化されている。港湾ほど自動化しやすい場所はない。そこから変えたらどうか」と一人が提案したのです※1。ところが、聞いていたほかの参加者は全員、「うーん」と止まってしまいました。なぜかというと、港湾は利権が強いから。荷降ろしは自動化が利くのですが、昔から外部から手を入れにくい領域なので、「それはそうですが……」と話が進まなくなったのです。

港湾の水深を深くして多くの船が接岸できるよう効率化を進めていけば※2、間違いなく競争力が上がります。シンガポールだけでなく、釜山や上海もそうしています。実にシンプルな話ですが、それができないところに日本の現状が表れています。メガプラットフォーマーがいる・いないといった問題以前に、私たちは答えが明らかな問題すら解けない状況にいるという認識を持つべきでしょう。

※1 現在、世界の港湾はトランシップ(貨物の積み替え)のニーズが高く、その対応で自動化や24時間化を進めている。しかし日本の港湾の貨物は自国向け中心で、トランシップへの対応が遅れている

※2 世界最大級のコンテナ船を接岸させるために必要な水深は18メートル。世界各国の主要港湾が大型船対応に向け埠頭の整備に動く中、日本で18メートルの水深を持つのは横浜港のみ

経営共創基盤
共同経営者
川上 登福
商社、GEを経て、IGPIに参画。DX・AI戦略、組織人事変革、新規事業開発、スタートアップ投資、産学連携等のPJを多数統括。株式会社経営共創基盤 共同経営者 マネージングディレクター、株式会社IGPIビジネスアナリティクス&インテリジェンス 代表取締役CEO、日本ディープラーニング協会 理事、他委員等多数

川上 DXのXはトランスフォーメーション。つまり改善ではなく、すっかりと形が変わる「変化」です。港の話も、おそらく表層のデジタル化は進むかもしれません。しかし、いざ改善ではなく変化をやろうとすると、「利権が」となってしまう。もう少し「悩みのステージ」を上げていく必要があります。

松尾 変化を嫌う背景には、構造的な問題があります。日本が競争力を持つ産業分野はいろいろありますが、おおよそどこも年功序列で、若い人が活躍しにくい環境にあります。一方、AIやITなど新しい技術の活用は若い人の活躍が不可欠で、組織内の環境と合わない。とくに大企業は売り上げの規模が大きく、それを捨ててまで組織を変えて新しいものに取り組むところまでいかないのです。


エヌビディア合同会社
エンタープライズ事業本部
事業本部長
井﨑 武士
東京大学工学系研究科修了。日本TIにて、デジカメ、DVD、HDトランスコーダ等映像・音声処理プロセッサの開発を経て、デジタル製品マーケティング部を統括。その後エヌビディアに入社し、ディープラーニングのビジネス開発に従事後、現在エンタープライズ事業を統括。JDLA理事、NEDO技術委員

井﨑 北米や中国など海外の事例を見ていると、ビジネスの目的を定義して、それをAIなどのツールに落とし込んでビジネス化していくスピードが断然速い。それに対して日本企業は、企画から精査して、収益化できるかどうかという見通しまで立てて承認のプロセスに入ります。

川上 日本もスタートアップは速いですよ。例えば松尾研究室は、何か1つのものを完成させたら、その瞬間からその完成させたものをある意味否定し、新たなことを探し始める文化を持っています。AIなど日進月歩のテクノロジー領域は、つねにそのスピード感でなければ世界についていけない。

井﨑 世界のビジネスの様相は、ここ数年で大きく変わりました。例えばディープラーニングは毎日のように海外から論文が出てきて、そこで使用されているプログラムは公開されており、ダウンロードすれば誰でもその技術を使うことができます。エヌビディアでもNGC Catalogというソフトウェアハブを公開しており、学習済みのAIモデル、フレームワーク、転移学習ツールキットなど、誰でもすぐに開発ができる環境を提供しています。

技術は完全にボーダーレスで、国境も人種もない状況。ところが日本企業は、国内の閉じた空間、あるいは何かしらの規制で守られている空間に心地よさを感じていて、世界の急速なボーダーレス化に対応できていない。そこに日本企業の競争力低下の原因があるのでしょう。

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