ポスト・コロナ時代の医学教育 つねに最先端技術を取り入れ革命的変化に挑む

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学長インタビュー

「克己殉公」の精神で未来型医学教育を推進

日本医科大学 学長
弦間 昭彦

──コロナ禍は、日本医科大学の医学教育にどのような変化をもたらしましたか。

弦間 「医学×ICT」が加速し、学生たちの時間的、空間的自由度が増したことが挙げられます。すべての学生が時間割に縛られることなくコアな部分の学習をe-learningで進められる一方、興味がある分野の研究や留学準備のための語学学習などに時間を充てやすくなりました。

また、シミュレーターを通じて身体所見を取るということも、オンライン講義で行いました。今後、遠隔診療が本格化することを考えると、より客観的な判断を下せることが重要になっていきます。大学側としては、学生たちの能動的学修を支援していくために、ICTを活用した教育体制を一段と進化させるとともに、コロナ禍で得た知見をしっかり未来の医学教育につなげていく所存です。

ただ、テクノロジーが発展する中で、患者さん側から心配されているのは、医師の人としての資質です。治療に専心してしまい、患者さんのお気持ちが置き去りにされるのではないかとお感じのようです。私どもとしても、優れた医療知識・技術を備えつつ、患者さんに寄り添える医師をどのように育成していくのか、改めて考える機会となりました。今年度はカリキュラムを変更する時期でしたが、1年延期し、本学がどのような医学教育を目指していくか、見極めていこうと思っています。

──具体的には?

弦間 まず教育の個別最適化です。例えば、現在e-learningで学べるコンテンツに加え、医師としての「心」の部分の教育については、もっと掘り下げたものを用意する。研究配属も医療領域だけではなく、AIやビッグデータ、バイオインフォマティクス、ロボティクスなどにも広げられるよう、すでに「医工連携」の枠組みで早稲田大学や東京理科大学の研究室に配属できるようになっていますが、さらにそうした環境を整える。画一的な教育ではなく、学生の学修状況や個人の興味に応じた能動的な学び方ができるように、教育を個別化していくことを考えています。

──ポスト・コロナの医学教育はどうなっていくのでしょうか。

弦間 医療のDXが進むことで、医師の役割も変わっていきます。例えば、医師が身に付けるべき医療知識はすでに膨大になっていて、重要性の低い知識・情報はいずれAIやアンドロイドで補完・代替されると予想されます。こうした医師の役割変化に応じたカリキュラムへの移行、新しい学修機会の提供が当然、必要になります。

一方、AIは記憶や計算が得意ですが、総合的な判断力やコミュニケーション力は人間に及びません。ですので、その部分の教育はさらに重点化していくつもりです。

本学は学是に「克己殉公」(我が身を捨てて、広く人々のために尽くす)を、教育理念に「愛と研究心を有する質の高い医師と医学者の育成」を掲げています。創立以来145年にわたり人間性豊かな医師や医学者を育んできました。時代の変化の中で、その精神は一層、重要度が高まると思います。これからも原点を忘れずに、本学は医学教育に尽力してまいります。

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