ポスト・コロナ時代の医学教育

つねに最先端技術を取り入れ革命的変化に挑む

「教育を止めない」が、コロナ禍における教育関係者の総意だ。ひとたび止まれば、社会への人材輩出も絶たれてしまう。とくに深刻な医師不足が叫ばれる中で、大学医学部は相当な危機感を持って対応に追われていたことだろう。しかし、「医科大学版テクノロジー革命」という旗幟(きし)の下、2015年からICTをはじめ先端技術を医学教育の現場に次々と導入している「日本医科大学」は、大きな混乱もなく講義を継続できているという。同大学では今後どのような医学教育を目指していくのか。

教育を止めなかったテクノロジー革命

2020年、春。新型コロナウイルス(COVID-19)の影響で、各大学は対面の講義をオンラインに切り替えることを余儀なくされた。しかし、環境が十分に整っていない大学では、新学期の授業開始日を繰り下げる事態となった。こうした混乱の中、学事暦どおりに新学期を迎えたのが「日本医科大学」だ。

なぜ可能だったのか。同大学医学教育センター教授 医学教育研究開発部門長の藤倉 輝道先生は次のように答える。

日本医科大学医学教育センター教授
医学教育研究開発部門長
藤倉 輝道先生

「COVID-19とは関係なく、本学では医科大学版テクノロジー革命を進めてきました。16年からは段階的にICTを活用した学習環境を整備。ほぼすべての講義を収録・ライブラリー化し、関連資料も学修支援システム(LMS)で公開しているので、学生はいつでも、どこでも学べる体制が整っていたのです」

同大学では学生たちの研究活動や海外留学を促進するために、18年度から成績優秀者に対して次年度の授業出席に代わってe-learning履修を可とする特別プログラム制度を実施している。こうした下地があったことも、対面からオンラインへの移行を円滑にしたといえる。

現在すべての講義、実習、実験、演習などをオンデマンドやWeb会議システムによるライブ配信なども含めたe-learningで行うほか、「3密」を避ける形でのハイフレックス型授業も導入している。

だが、臨場感が求められる対面講義や臨床実習がままならない状況にあるのは確かだ。どれだけ緊張感とリアリティーのある研修を積めるか、いかに多くの症例を経験できるかが、医師の資質を大きく左右する。そこで今、大いに力を発揮しているのが、人型シミュレーターやVRシステムなどのハイテクツールだ。

シミュレーターやVRでリアルな実習が可能に

例えば、問題基盤型学習(PBL)と呼ばれる授業では、紙ベースで課題シナリオ(患者の病歴や来院に至る経緯など)が提示され、何が問題か、どう診断を下すかといったことを小グループに分かれて討議を行っていたが、これを遠隔PBLに置き換えた。メイン教室を初療室に見立て、その名も「シナリオ」という人型シミュレーターを設置し、代表の学生が「シナリオ」から提示される臨床課題に取り組む。その様子はほかの学生がいるサブ教室の大型電子黒板に同時中継され、画像データや検査データなどの情報も共有される。

紙ベースと異なるのは、学生が自ら所見を取りにいかなければ、課題が提示されない点だ。「時間経過に伴い『シナリオ』は病状が悪化するようにプログラムされているため、ぐずぐずしていられません。培ってきた医療知識を総動員してアウトプットを図るという、臨床現場に近い学習体験をすることができます」(藤倉教授)。

「シナリオ」が主に内科的疾患の臨床実習に役立てられるものとすれば、外科的治療に対応するのがVRシステムだ。元は同大学救急医学分野大学院教授・同大学付属病院高度救命救急センター長の横堀 將司先生が、産学協同で開発した「救命救急VR」による臨床実習を18年から開始。以前から計画していた、手術室のVRライブ配信とデータ蓄積を実現する「オペクラウドVR」の臨床実習も20年8月に実施した。

日本医科大学救急医学分野大学院教授
日本医科大学付属病院高度救命救急センター長
横堀 將司先生

「現状では学生たちに、気管挿管などの救急処置を直接見せられませんが、現場に設置された360度カメラから送られてくる映像を、学生が装着したVRゴーグルを通して、かなりの没入感をもって見ることができます。学生は今、リアルな体験を欲しています。そのような状況下での実習なので、学生からは『将来どんな医師になりたいのか、改めてイメージすることができた』と好評を博しています」と横堀教授は手応えを感じている。

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