ポスト・コロナ時代の医学教育 つねに最先端技術を取り入れ革命的変化に挑む
VR臨床実習の最たる利点は、目線を共有できるところにある。360度カメラは2台設置され、それによって、例えば医師目線、看護師目線でコンテンツを2つに分けることができる。また、カメラの1台は手技を行う上級医目線にして、もう1台を高い位置に設置すれば、多職種のメディカルスタッフの動きを異なる角度で見渡せる。教育目的に合わせてカメラ位置を変えることで、臨場感、緊迫感の伝わる多彩なコンテンツを作り上げることが可能だ。
また、ゴーグルを装着している学生の目線の動きも計測し、AIを使って解析できる仕組みになっている。教員は自身のタブレットと学生のゴーグルを連動させ、救命の現場ではどこに着目すべきか適宜、明確に指導することができる。
最新医療の修得と人間性を育むために
目下の課題は「VR教育コンテンツ数の充実」と横堀教授は言う。他大学・施設および企業とでいくつかの共同プロジェクトを立ち上げ、コンテンツ開発に取り組んでいる。21年度内には現在のコンテンツ数が4倍程度に拡充される見通しだ。
もちろん良質な医療を提供するためには、患者およびメディカルスタッフとのコミュニケーションが不可欠だ。これまで多くの市民ボランティアに「模擬患者」として、学生の医療面接の練習相手を務めてもらってきた。これをオンライン化するとともに、「医工連携」の一環で東京理科大学と共同開発したアンドロイド型模擬患者「SAYA」の高機能化を急いでいる。
「『SAYA』は非常にリアルに顔で喜怒哀楽を表現できるのが特徴。内蔵センサーによって、医師役の学生とアイコンタクトや声のトーンなどの良しあしを客観的に評価できるのが利点です。AIを搭載し進化しつつあるので、いずれ模擬患者に代わるトレーニング役になるでしょう」(藤倉教授)
このほか同大学付属病院の病室と学生たちがいる部屋とを有線LAN使用のパソコンで接続し、感染予防対策と個人情報管理を徹底したうえで、医療面接実習が行えるようにする予定だ。メディカルスタッフとのコミュニケーションも、すでにチーム医療臨床実習を実施するなどの対策を取っている。
「大学医学部はさまざまな試みを実証し、社会実装へつなげる最先端ラボです。この先、VR技術を使うことで医師がいない災害現場でのプレホスピタルケアが可能になるなど、未来型の医療が実現することで、医師の役割、働き方も変わるはずです。われわれ大学側も時代に即した医学教育を提供していかなければなりません」(横堀教授)
コロナ禍でも教育を止めなかった日本医科大学。テクノロジーとヒューマニズムの調和を図りながら、新しい時代への挑戦も止まることはない。