出遅れた日本企業に「処方箋」はあるのか? AI・ディープラーニングはビジネスの必須科目

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――AIやディープラーニングの活用で、具体的にどのようなことが可能になりますか。

エヌビディア合同会社
エンタープライズ事業本部
事業本部長
井﨑 武士

井﨑 今、製造業の現場で起きているのが、技術継承の問題です。日本の工場はノウハウの塊ですが、ノウハウが属人化しているため、高齢化で退職すると技術が継承されないのです。この問題は、AIを使って自動化することで解決ができます。

注意したいのは、置き換えるだけだと単なる省人化で終わるという点です。AIやディープラーニングを活用するなら、いかに付加価値を出すかを考えるべきです。例えば、製造業の生産ラインでは、従来は目視でやっていた判定検知が次々とディープラーニングに置き換えられています。それによって省人化されただけでなく、これまで人間では無理だったスピードや精度が実現して、高品質なものをハイスループットで世の中に出せるようになりました。

日本でも、ディープラーニングで新しい価値をつくり出している事例が増えてきました。日立造船はプラントの溶接部分に超音波を当てて内部のクラックを調べていますが、そのトレースデータをディープラーニングで分類して、精度を高めています。農業分野でいえば、オプティムのドローン農薬散布も興味深い事例です。ドローンを飛ばして、病害虫がついている葉っぱの色をディープラーニングで分類します。必要なところだけにピンポイントで散布できるので、食べ物にも環境にもやさしい農業を実現できます。ちなみにどちらにも学習段階にNVIDIAのGPUが使われています。

川上 問題は、デジタル人材が足りていないことですね。AI活用の話はよく出るのですが、どこの会社でも「誰がやるのか」という問題にぶち当たります。DX推進室のような部隊はつくるのですが、質や量が伴わず、実効性が低いケースがほとんどです。外部から人材を呼ぶにしても、組織的なバックアップ、任せて進めるということが、現実的にはできていない。人材も獲得競争が起こっている。採用や人事の仕組みを変えないのであれば、採用できないのは当たり前。メジャーリーガーは、一括新卒採用の枠組みでは採用できない(笑)。

井﨑 日本はSIer文化です。企業はSIer任せにした結果、技術的な空洞化が起きています。SIerのほうも仕様書のとおりに作って納品することを第一に考えるため、新しい技術の発想が出てこない。破壊的イノベーションができる人材が両サイドで不足している。

松尾 AI人材については丁寧な議論が必要でしょう。一口にデジタル活用と言っても、データ分析とディープラーニングは別の話です。データを取って意思決定やレコメンデーションに活用しなければいけないという議論は2000年代初頭からあって、技術的に当時から変わっていません。日本はデータ分析を真剣にやっていなくて、今になって遅れを取り戻そうと一生懸命やっています。一方、ディープラーニングは最近になって実用化された技術で、それを使ってどのように新しいビジネスをつくっていくのかということが問われます。

データ分析とディープラーニングは性質が違うので、人材についても分けて考える必要があります。ところが、データ分析や統計、従来的な意味での機械学習をAIと考えている企業が少なくなかった。理解が進んできたのは、ごく最近でしょうか。ディープラーニング人材の検定・資格である「G検定」や「E資格」は、受験者がどんどん増えてきました。企業も自社で技術をわかっていなければいけないという意識が芽生えてきたのでしょう。

川上 AIやディープラーニングは、もはや必須科目です。表計算ソフトを使えないと仕事にならないように、AIやディープラーニングを理解していないとビジネスが進まなくなりつつあります。また、知識やスキルに加え、それらの技術を使って新しいビジネスを生み出す発想力も磨きたいところです。「この技術で何ができるのか」と技術を起点に考えることも大切ですが、「自分はこれがしたい」「これができたら社会が変わる」と想像力を膨らませて、それを松尾研やAI系スタートアップに「こんなことできませんか」とフィードバックしていく流れができたら面白いですよね。

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