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出遅れた日本企業に「処方箋」はあるのか? AI・ディープラーニングはビジネスの必須科目

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  • NVIDIA 制作:東洋経済ブランドスタジオ
日本の競争力低下が叫ばれて久しい。「Fortune Global 500」(2020年)のトップ10に入っているのは1社のみ。500位内には計53社が入っているが、中国124社、アメリカ121社に大きく水をあけられている。原因としてデジタル活用の遅れが指摘されているが、実態はどうなのか。東京大学大学院の松尾豊教授、経営共創基盤パートナーの川上登福氏、NVIDIA(エヌビディア)の井﨑武士氏が、日本企業におけるAIやディープラーニングの産業活用について語り合った。

https://fortune.com/global500/

――日本の産業競争力が落ちた原因は何でしょうか。

東京大学大学院
教授
松尾 豊

松尾  中国深圳のものづくりを見ていると、PDCAの回し方が速い。マーケティングと製造がデジタルでつながっていて、ライブコマースで売りながら次の瞬間には顧客からのフィードバックを受けて作り直しているというスピード感です。これは、とりあえず出してから改善していくというデジタルネイティブの考え方です。一方、日本は売り場のデータを分析してからようやく需要予測したり自動発注したりするくらいのレベルで、PDCAの回し方が遅い。そこが日本企業の競争力を削いでいます。

川上 スピードの遅さは、組織として物事を決められないことも一因でしょう。どの経営者も、不確実性の時代だと言う。それは、過去の延長線上にない意思決定が今まで以上に求められる、ということであり、それがどういうことかを、しっかりと理解している経営者は少ない。「前例はあるのか」「他社はどうしているのか」という話がまだまだ多い。危機意識を持ち、会社を変えようとしている経営者もいるが、中間層や、各部門、組織全体としての意思決定のメカニズムの変革はまだまだ、これからの状態だ。

井﨑 もう1つ、適切なIT投資がなされていないことも見逃せない要因です。実は国単位でIT投資額を見たとき、日本の投資額は少なくありません。しかし、実際の産業の成長にはつながっていないというデータがあります。

投資額は他国並みなのに成長に結び付いていないのは、適切なところへの投資が足りていないからです。日本のIT投資は、少ない物量で効率的に成果を出すことを重視します。しかし、ディープラーニングはデータの量と計算力で差がつく、いわば圧倒的な物量がものをいう世界。日本はそこが十分ではない。

経営共創基盤
パートナー
川上 登福

川上 必要なところに投資が足りていない一方で、無駄も多いと感じます。日本では組織の複雑なヒエラルキーや現場の細やかなプロセスを、すべてそのままITに置き換える傾向が強い。それに対してアメリカは、パッケージを買ってきて組織構造やオペレーションを変えていきます。日本の企業もそうやっていかないと、無駄な投資が増えるだけでなく、組織の形や業務がIT時代に合わなくなっていく。

IT投資に対する感度の差は、経営層の意識の差でもあります。アメリカのCEOがみんなITに詳しいわけではありません。ただ、「この技術があれば人間社会はこう変わる」「その社会に最も最適化された会社の形は何か」と、既存の価値にとらわれずに考える視点を持っています。

松尾 一般的な組織の意思決定は、50代後半から60代でいいと思いますが、ITに関する意思決定は30~40代の人に任せるべき。世界で活躍している名だたる経営者として連想されるのは30~40代でデジタルの最前線に立っていた人たち。彼らと戦うなら、若くて優秀な人材を意思決定のポジションに就けないと、同じ土俵に乗ることすら難しいのではないでしょうか。

――AIやディープラーニングの活用で、具体的にどのようなことが可能になりますか。

エヌビディア合同会社
エンタープライズ事業本部
事業本部長
井﨑 武士

井﨑 今、製造業の現場で起きているのが、技術継承の問題です。日本の工場はノウハウの塊ですが、ノウハウが属人化しているため、高齢化で退職すると技術が継承されないのです。この問題は、AIを使って自動化することで解決ができます。

注意したいのは、置き換えるだけだと単なる省人化で終わるという点です。AIやディープラーニングを活用するなら、いかに付加価値を出すかを考えるべきです。例えば、製造業の生産ラインでは、従来は目視でやっていた判定検知が次々とディープラーニングに置き換えられています。それによって省人化されただけでなく、これまで人間では無理だったスピードや精度が実現して、高品質なものをハイスループットで世の中に出せるようになりました。

日本でも、ディープラーニングで新しい価値をつくり出している事例が増えてきました。日立造船はプラントの溶接部分に超音波を当てて内部のクラックを調べていますが、そのトレースデータをディープラーニングで分類して、精度を高めています。農業分野でいえば、オプティムのドローン農薬散布も興味深い事例です。ドローンを飛ばして、病害虫がついている葉っぱの色をディープラーニングで分類します。必要なところだけにピンポイントで散布できるので、食べ物にも環境にもやさしい農業を実現できます。ちなみにどちらにも学習段階にNVIDIAのGPUが使われています。

川上 問題は、デジタル人材が足りていないことですね。AI活用の話はよく出るのですが、どこの会社でも「誰がやるのか」という問題にぶち当たります。DX推進室のような部隊はつくるのですが、質や量が伴わず、実効性が低いケースがほとんどです。外部から人材を呼ぶにしても、組織的なバックアップ、任せて進めるということが、現実的にはできていない。人材も獲得競争が起こっている。採用や人事の仕組みを変えないのであれば、採用できないのは当たり前。メジャーリーガーは、一括新卒採用の枠組みでは採用できない(笑)。

井﨑 日本はSIer文化です。企業はSIer任せにした結果、技術的な空洞化が起きています。SIerのほうも仕様書のとおりに作って納品することを第一に考えるため、新しい技術の発想が出てこない。破壊的イノベーションができる人材が両サイドで不足している。

松尾 AI人材については丁寧な議論が必要でしょう。一口にデジタル活用と言っても、データ分析とディープラーニングは別の話です。データを取って意思決定やレコメンデーションに活用しなければいけないという議論は2000年代初頭からあって、技術的に当時から変わっていません。日本はデータ分析を真剣にやっていなくて、今になって遅れを取り戻そうと一生懸命やっています。一方、ディープラーニングは最近になって実用化された技術で、それを使ってどのように新しいビジネスをつくっていくのかということが問われます。

データ分析とディープラーニングは性質が違うので、人材についても分けて考える必要があります。ところが、データ分析や統計、従来的な意味での機械学習をAIと考えている企業が少なくなかった。理解が進んできたのは、ごく最近でしょうか。ディープラーニング人材の検定・資格である「G検定」や「E資格」は、受験者がどんどん増えてきました。企業も自社で技術をわかっていなければいけないという意識が芽生えてきたのでしょう。

川上 AIやディープラーニングは、もはや必須科目です。表計算ソフトを使えないと仕事にならないように、AIやディープラーニングを理解していないとビジネスが進まなくなりつつあります。また、知識やスキルに加え、それらの技術を使って新しいビジネスを生み出す発想力も磨きたいところです。「この技術で何ができるのか」と技術を起点に考えることも大切ですが、「自分はこれがしたい」「これができたら社会が変わる」と想像力を膨らませて、それを松尾研やAI系スタートアップに「こんなことできませんか」とフィードバックしていく流れができたら面白いですよね。

――AIの時代になって、経営者はどのようなことを意識すべきでしょうか。

井﨑 「日本はものづくりに強みがある」と言いますが、巨大IT企業はもう、ものづくりの領域をやり始めていて、市場をすべて持っていかれる可能性があります。すでに危険な状況にあることをまず認識したうえで、どうやって企業の競争力を高めていくのかを考えていただきたいですね。

松尾 もはや取り返しがつかない差が開いているんじゃないですか。日本はコロナ禍でデジタル化が少し進みました。しかし、世界はコロナ禍を機に、もっと先に進んでいます。ビデオ会議が増えたので先日ワイヤレスのイヤホンを買ったのですが、もともと優位性があったはずの日本メーカーの存在感はなくなっていて、逆に中国系ばかりが目立ちました。

川上 日本に優位性は残っていない、すでに焼け野原だというくらいの強烈な危機感が必要でしょうね。そう認識しておかないと、おそらく今後も変われない。何か処方箋はありますか?

井﨑 AIやディープラーニングの使い方によっては、特定の分野で1つの企業が他を淘汰してくような業界再編は十分にありうると思います。日本の個々の企業に期待です。

松尾 日本のスタートアップには、世界で勝てる可能性がまだあると思います。大企業は、とにかく若い人を解き放って活躍させてあげること。それが日本の唯一の勝ち筋ではないでしょうか。

コロナ禍においてビジネス成長が鈍化している日本企業に対し、世界のIT企業はさらに業績を伸ばしている。ボーダレスが叫ばれる中、日本企業に残された時間はそれほど多くないのかもしれない。

井﨑氏が所属するNVIDIAでは単なるハードウェアだけでなく、対話型AI、レコメンデーションAI、医療画像診断支援AI、インテリジェントビデオ解析AI、自動運転AIなど数多くのソリューションや、迅速な開発着手を可能とするNGCカタログというGPU最適化ソフトウェアのハブを無償で提供しており、AI、ディープラーニングに取り組む環境をそろえている。NVIDIAの日本法人では、日本企業がこれらの環境を活用し、自社のビジネスにAIを導入する支援をしている。現状に危機感を覚えながらも、どこから手をつければいいかわからないという企業は、まずはこうしたサービスを取り入れることから始めてはいかがだろうか。