HISが取り組む「攻め」のDXとは? 「接客DX」に中高年層が急増のワケ
日本政府観光局(JNTO)によると、訪日外客数および出国日本人数は今年4月から5カ月連続で98%以上減少した。旅行業界大手のエイチ・アイ・エス(以下、HIS)個人旅行営業本部販売事業部で部長代理を務める杉田崇氏は、新型コロナウイルス(以下、新型コロナ)の影響について次のように話す。
「2001年の米国同時多発テロ事件や03年のイラク戦争、SARS(重症急性呼吸器症候群)流行の際でも、ここまでの影響は受けませんでした。地域が限定され他の渡航先へご誘導ができたこともあり、ある程度の時間が経てば回復するとの見込みもありました。ところが、今回の新型コロナは世界規模で、過去の事例よりも長期的な影響が出る見込みとなっております」
コロナ禍において、さまざまな業界でデジタル化が進んでいることは周知の事実だろう。旅行業界も例外ではないが、やや趣が異なる。
「コロナ禍でデジタル化が加速したことは間違いありません。ただ、旅行業界では、新型コロナの感染拡大前からデジタル化が進んでいて、パソコンやスマートフォンで旅行先や商品を検索し、そのままご予約、決済まで完結するスタイルが普及しつつありました。実際、弊社は19年10月期決算で、インターネット販売の送客数がリアル店舗を初めて上回りました。
コロナ禍に関係なく、オンライン対応の強化を計画していましたが、ウェブサイトなどのインフラ整備は進んでいたものの、まだまだオンライン予約に慣れていないお客様も多くいらっしゃいますので、『サイトを見たけれどよくわからない』『どれがいいか勧めてほしい』というお客様に対し、安心してご予約、ご出発いただく流れをつくりたいと常々考えていました」(杉田氏)
世界一の「おもてなし」をオンラインでどう実現する?
こうした中、HISのサポートに名乗りを上げたのが、チャットボットと会話しながら商品が購入できるチャットコマースを展開するジールスだ。代表取締役CEOの清水正大氏は、経緯を次のように振り返る。
「HIS様には当初、チャットボット単体の利用をご提案させていただきました。しかし、新型コロナの流行によって、接客の需要はあるものの、対面の接触は求められていない状況が続く中、単なるツールの提供ではなく、店舗で受けられる一連の接客サービスをデジタルの空間に再現する、『接客DX(デジタルトランスフォーメーション)』を実現することがわれわれの役割であると考えるようになりました」
清水氏がこう考えたのは、オンラインでの接客に対する「不満」があったことも影響している。
「日本の『おもてなし』は世界一だと感じています。しかし、ウェブの世界においてその精神が再現できているかというと疑問が残ります。こうした本質的なコミュニケーション課題は、AIを搭載したチャットボットを導入するだけでは解決しません。例えば、ウェブサイト上にチャットボットに話しかけられるポップアップが出たとしても、そこに人のぬくもりや心をくすぐる工夫などがなければユーザーはそこに話しかけたいとも思いません。そうなるとチャットボットを導入する意味がなくなってしまいます」(清水氏)
こうした思いをストレートにぶつけた清水氏を、HISは真っ向から受け止めた。