感情を揺さぶる「デジタル音声広告」の実力 なぜ音声が企業ブランディングに有用なのか
2019年、電通が発表した「日本の広告費」においてインターネットが、テレビメディアを抜き、2兆円超えとなったことが話題になった(※1)。巨大市場となったインターネット広告の中でもさらに成長を遂げているのが、ポッドキャストや、Spotifyなど音楽ストリーミングサービスを媒体とした「デジタル音声広告」という分野だ。
音声は、人間の感情に直接働きかける
日本においてデジタル音声広告の出稿環境が整備され、本格的に取り扱われるようになったのは2019年とつい最近のことだ。ポッドキャストやラジオ番組配信、音楽配信などのサービスが増えるに従って現在進行形で急成長しており、20年には前年比229%の16億円程度になると推定されている。今後も急激な市場拡大が見込まれ、23年には245億円規模に、さらに25年には420億円規模になると予想される(※2)。
こうしたデジタル音声広告市場の拡大の兆しは先行してアメリカで表れている。アメリカにおけるデジタル音声広告の収入総計は、17年時点で1972億円、18年は2424億円、そして19年は約2988億円と急成長を遂げている(※3)。
なぜ、ここまでデジタル音声広告がにわかに活気づいているのか。音楽・広告業界で数々の受賞歴があるアメリカの作曲家/テレビプロデューサーであり、著書に『なぜ、あの「音」を聞くと買いたくなるのか』があるジョエル・ベッカーマン氏に話を聞いた。まず彼が指摘するのは、デジタル音声広告と企業ブランディングの親和性が非常に高い点だ。
「以前私の会社が手がけた、ある大手通信会社のサウンドブランディングの際に行った調査では、音声によってブランドの認知度や好感度、親近感を顕著に向上させられることが明らかになりました。しかもそれは視覚を通した場合に比べ、驚くほど高い効果でした。そうした音声の効果を利用すれば、音声広告によってユーザーとブランドの結び付きを強固にできます。
音の効果というと、例えばスマートフォンでメールを送信する時、“スーッシュ”という効果音が流れることで、ユーザーは仕事を1つ片付けた満足感を得られます。同様にクレジットカードやデジタルマネーの決済音は、買い物による高揚感や満足度を高めてくれます。このように音声には、人間の感情にダイレクトに働きかける作用があるんです」(ベッカーマン氏)
感情をターゲティングすることも可能
なぜ音声は、人間の感情に直接働きかけるのか。
「音声や音楽は、脳の原始的な部位である大脳辺縁系に直接作用し、瞬時に強い感情や記憶を呼び起こします。例えば、不意に聴こえた曲のワンフレーズにより、家族や恋人との思い出に一瞬でタイムスリップすることがありますよね。このように音は気づかないうちに、私たちの気分や体験に大きな影響を与えています。
だからこそ、ユーザーの感情を揺さぶるようなブランディングをするには、音声がとても効率的なのです。音声は、ブランドの存在とユーザーの特定の感情とを結びつける“赤い糸”のような働きをするといってもいいでしょう」(ベッカーマン氏)
またSpotifyなどのデジタル音声広告では、従来のラジオ音声広告と違って、年齢・性別・エリアといった細かなターゲティングが行えるのも大きな特徴だ。さらには曲と曲の間に広告が流れるため、プレイリストやジャンルをもとに「リラックスしている人」「エモーショナルな気分の人」など、“感情をターゲティング”することも可能だ。このように、従来とは異なる広告戦略を用いることができる点も、デジタル音声広告が選ばれている要因の1つだろう。
「この先、企業がアイデンティティを確立するにあたり、サウンドブランディングは必要不可欠なものとなっていくでしょう」(ベッカーマン氏)
次ページからは、デジタル音声広告の代表的な媒体であるSpotifyにて、実際に音声広告を出稿し効果を得た企業事例を紹介する。
※1 電通「2019年 日本の広告費」
※2 デジタルインファクト調べ
※3 出典:IAB internet advertising revenue report 2016~2018 full year results
IAB-HY19-Internet-Advertising-Revenue-Report
FY19-IAB-Internet-Ad Revenue Report_Final