ホテルに物流...「異色」な不動産開発の舞台裏 唯一無二のビジネスモデルと「持続可能」で勝負
デベロッパーとしての実力もさることながら、ファンドマネジャーとしても個性が光る。竣工後は、稼働している不動産を集めて新たにファンドを組成する。ファンドが一定以上のパフォーマンスを上げたら、上回った利益については霞ヶ関キャピタルがアセットマネジャーとして報酬をもらう。パフォーマンスが一定以下なら霞ヶ関キャピタルも報酬ゼロ。ゆえに成功報酬志向型というわけだ。
「戦略的コンサルティング型デベロッパーと成果報酬志向型ファンドマネジャーは、対になっています。竣工後に利益を出さないといけないので無責任な企画はできないし、優れた開発企画だと証明するには実際に投資家の皆さんに還元できないといけない。両方がそろって相互に価値を高めていくビジネスモデルです」(河本氏)
コロナ後のリバウンド消費、「国内旅行」に熱視線か
コロナ以前、日本は観光立国を目指してインバウンドを推進してきたが、増え続ける訪日客に対して宿泊施設が圧倒的に不足していた。とくに足りなかったのは、4~5人で泊まれるアパートメントホテル。家族や友達同士で旅行に来てもホテルはツインが中心で、需給に大きなギャップがあった。
そこで試しに、東京の町屋(荒川区)で40平方メートル前後の1LDK賃貸マンションをホテルにコンバージョンしたところ、意外な結果になった。
「ありがたいことに宿泊客が殺到したのですが、国内7割、訪日客3割で、国内のほうが多かった。調べてみると、東京のテーマパークに遊びに来て宿泊代をリーズナブルに抑えたい、かつ仲間みんなで集まって宿泊したい若者に人気でした」
そう語るのは、取締役執行役員投資事業本部長の緒方秀和氏だ。
新型コロナウイルスの影響でインバウンドの需要は縮小したが、もともとインバウンド依存のモデルではなかったため、影響は軽微だ。アフターコロナでは、むしろ海外旅行の代替で国内旅行を楽しむ「リバウンド消費」の波が来ることが予想される。政府が予定している地域の活性化に向けた「Go Toキャンペーン」も追い風になるだろう。国内旅行客が戻り始めたとき、アパートメントホテルの利用はさらに広がるに違いない。
なお、同社のアパートメントホテルのコンセプトは「安くて広くて便利」。それを可能にしているのは、「駅前1.2~1.5等地を狙う」と「デジタルを駆使する」の2つの方針だ。
「駅前の1等地は、さすがに土地が高いので広い部屋は難しい。ですので、駅から徒歩5~10分くらいの立地を狙います。グループ客だとレンタカー移動の場合も多いので、必ずしも駅前である必要はありません。また、フロントに人を配置せず、デジタルによる無人チェックインにすることで、人件費も抑えられます」(緒方氏)
将来の伸びを見据えて取り組んでいるといえば、海外事業も同じだ。昨年、霞ヶ関キャピタルはタイのバンコクとインドネシアのジャカルタに現地法人を置いた。
「東南アジアは人口動態的にもこれから著しい成長が期待されています。多くの日本のプレーヤーや投資家が参入したいと考えていると思いますが、ノウハウの不足や言語の壁があるのが現状。われわれは現地のパートナーと組むことで、スピード感をもって取り組み、“水先案内人”となれればと考えています」(河本氏)
具体的には、戦略的コンサルティング型デベロッパーと成果報酬志向型ファンドマネジャーのビジネスモデルをアジアでも展開。そこに日本の投資家や事業会社を呼び込み、開発を進めるという。すでに、バンコクでは分譲マンション、ジャカルタでは一戸建てのプロジェクトが始動している。
次に取り組む社会課題は事業承継と物流チェーン
次々に社会課題の解決に取り組む霞ヶ関キャピタルだが、この6月から新たに2つの社会課題への挑戦を始めている。1つ目のテーマは、事業承継だ。河本氏は問題意識を次のように明かす。
「団塊世代の社長が70代に入り、リタイア適齢期を迎えています。しかし、後継者が不在で休業や廃業を余儀なくされている企業が少なくない。5年前の2015年、休業・廃業の件数は3万7000件台でしたが、19年は4万3000件台まで増えています。しかも休廃業・解散する直前期の決算を見ると、19年では企業の61.4%が当期純利益が黒字なのです※。これではGDPの損失につながります。まさに国を挙げて取り組まなくてはいけない課題でしょう」
事業承継の有力な手段の1つがM&Aだ。ただ、M&Aでは事業譲渡側の不動産がネックになることがある。未活用で負の資産となっている不動産があると、買い手が買収を躊躇するのだ。
「そこで注目されているのが、CRE(コーポレート・リアル・エステート)戦略です。不動産は私たちの得意分野。ほかの事業で信頼関係を築いた地方銀行とも連携して、不動産の入れ替えや整理のお手伝いをしていきます」
※東京商工リサーチ 2019年「休廃業・解散企業」動向調査より