さらば渡辺麻友!「まゆゆ」は本当に偉大だった 昭和のアイドルや映画女優のような稀な逸材

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2019年になると、“朝ドラ”ことNHK連続テレビ小説100作目の記念作「なつぞら」に出演。ヒロインなつ(広瀬すず)のアニメ制作会社での同僚・茜を演じた。メガネをかけてまじめにアニメに取り組む彼女はちょっと地味に見えるが、隠しきれないポテンシャルがあるという渡辺麻友の真骨頂といえる役である。ある回ではダンスの途中にメガネを外され、美しい素顔をさらすというサービスカットがファンを喜ばせた。

茜はやがて同じ会社のアニメーターと結婚、子育てしながら仕事をする大変さを、なつと分かち合う。なつは仕事と育児を両立するが、茜は仕事を辞め家庭に入る。そのうち、仕事が忙しいなつの子供まで預かることになり、子育てに苦労している女性視聴者に応援された。

最後まで「渡辺麻友」というイメージを守り抜いた

このドラマが渡辺麻友の最後のドラマ出演作となったとはなんとも感慨深い。渡辺麻友も芸能人という仕事をきっぱりやめて新たな人生を送っていくのだろうか。「なつぞら」以降、活動をセーブしていたとはいえ、さほどの予兆もなく、風のような引退宣言。まるで、ファンタジーの世界で、魔法使いやウルトラマンやかぐや姫のような異世界の人物がある日突然、自分の正体を隣人に明かし、この世界にずっととどまることはできないのだと、別れを告げて去ってしまう最終回のような幕切れによって、渡辺麻友は最後まで渡辺麻友という偶像のイメージを守り抜いたように思う。

日本の芸能界でこういう偉業が徹底できたのは原節子くらいではないだろうか。清純派俳優としていっさいイメージがブレることなく生き抜いているのは吉永小百合だが、小津安二郎の映画に多く主演した原節子は小津の死後、公的な場にいっさい姿を現さなくなり、出演作のイメージを生涯守り抜いた。山口百恵も歌手を引退した後、家庭に入って芸能活動に戻ることはなかった。こういうレジェンド級の偉人たちのように渡辺麻友がなるか、静かに見守りたい。(文中敬称略)

木俣 冬 コラムニスト

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きまた ふゆ / Fuyu Kimata

東京都生まれ。ドラマ、映画、演劇などエンタメ作品に関するルポルタージュ、インタビュー、レビューなどを執筆。ノベライズも手がける。

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