グッドデザイン賞が強くするビジネスの価値 今なぜ企業は「良いデザイン」に注目すべきか
グッドデザイン金賞
富士通
音をからだで感じるユーザインターフェース Ontenna
「Ontenna(オンテナ)」は髪の毛や耳たぶなどに身に着け、振動や光によって音の“感触”を体で感じることができる新たなインターフェースだ。開発を担当した富士通テクノロジーソリューション部門ビジネスマネジメント本部Ontennaプロジェクトリーダーの本多達也氏はこう語る。
「ろう者に音を届けたい。体で音を感じるというコンセプトで、音の大きさを振動と光の強さで表すようにしました。ろう者は音の存在を感じることで、新たなコミュニケーションを得られるように、健聴者も一緒に映画や音楽などを楽しめるようになっています」
開発のきっかけは大学時代にろう者と出会って手話を始めたこと。そこから、音をどのようにフィードバックするのか、その答えを触覚に求め、製品化するまで7年を費やした。現在は全国のろう学校などで広く利用されている。
「デザインについてはいつも迷いがあります。だから、グッドデザイン賞は私にとって大事な指標ですね。これからもさまざまな人の声を聴きながら、社会課題の解決に役立つデザインを実践したいと思っています」
良品計画
自動運転バス GACHA
あの無印良品を展開する良品計画が自動運転バスをデザインしたと聞けば興味は高まるはずだ。「GACHA」は全天候型の自動運転(Level 4)シャトルバス。同社では、かねてより少子高齢化、人口減少などの社会課題の解決に取り組み、その活動に共感した北欧フィンランドのテック系スタートアップ「Sensible4」が同社にデザインを依頼し、プロジェクトが始動した。
デザインの価値観、社会課題の共通性を感じていたこともあり、ビジョンの共有はしやすかったという。デザインで注力したのは「テック系の題材であっても、生活者からの視点や社会性を与えることで、街に溶け込みやすく、先端技術のハードルを下げ、親しみやすいものにすること」だった。
利用者からは「未来的でありながら、シンプルで実用的」などの声が寄せられている。受賞後はデザイン関係以外の業種や自治体からのオファーが増えており、同社では、今回の経験も踏まえてこれからも社会課題の解決に貢献したいという。
ソニー、ソニー企業
都会の中の実験的な「変わり続ける公園」
Ginza Sony Park
1966年の開業以来、長く親しまれてきた銀座・ソニービル。この地を次世代のブランドコミュニケーションの場にするべく、解体を再開するまでの期間限定で生まれたのが「Ginza Sony Park(銀座ソニーパーク)」だ。
ソニーが創業時から掲げる「人のやらないことをやる」というチャレンジ精神とソニービルの設計思想である「街に開かれた施設」というコンセプトを大切にすることで、「すぐに建てずに公園にする」というアイデアが生まれたという。
同社にとっても公園をつくるのは初めてで、都市における公園を再定義し、新しいライフスタイルと空間スタイルを問うという新しい挑戦となった。また、「解体をデザインする」「余白をデザインする」ことで、「垂直立体公園」としてビルの特徴的な構造を生かす大規模な「減築」という手法を取り、同社では初めての建築部門としての受賞につながったという。
開園以来、2年弱で約560万人を超える来園者があったこのプロジェクト。社内外のパートナーと実現させた経験を生かし、今後も新たなデザインにチャレンジしていきたいという。
福島県いわき市役所地域包括ケア推進課
いわきの地域包括ケア
igoku(いごく)
グッドデザイン賞が対象としているものは幅広い。コミュニケーションをデザインした「igoku(いごく)」もその1つだ。igokuは人々が忌み嫌う「老・病・死」についてスポットを当て、コミュニケーションを促している。担当者である福島県いわき市役所地域包括ケア推進課の猪狩僚氏が言う。
「福祉の仕事に関わる中で、ケアマネジャーの人が泣きながらケア体験の話をするのを聞いたことがありました。こんなに真剣に人の死を考えている人がいる。人生の最期を自宅で迎えたいと思ってもかなわない人がいる。もっとみんなで人生の最期について考えよう、つながろう。そう思ったのが始まりでした」
そこから志を一つにするデザイナーやライターと共にigoku編集部をつくり、Webや雑誌、ポスターを展開するほかリアルな死を体験できるイベント「いごくフェス」などを開催した。
「これまで死に対して、何も考えてこなかった人にも伝わるようにデザインにもこだわりました。同じ景色でもデザイン1つで見え方が変わる。自治体はデザインを活用することで見えてくる新たな視点を持つべきだと思います」