グッドデザイン賞が強くするビジネスの価値 今なぜ企業は「良いデザイン」に注目すべきか
日本で突出した知名度があり総合的なデザイン評価・推奨を行っているデザイン賞といえばグッドデザイン賞だ。長きにわたり、プロダクトデザインを中心に「良いデザイン」を発見し、Gマークとともに広く社会と共有することで新たな創造への気づきを生むことを目指してきた。
そんなグッドデザイン賞が今、改めて大きな注目を集めるようになっている。ビジネスをはじめとして社会のあらゆる課題にデザインの力を活用する流れがあるからだ。同賞を主催する公益財団法人日本デザイン振興会事業部課長の津村真紀子氏は次のように語る。
「デザインの振興と産業の育成はリンクしています。その意味でも、企業はデザインにお金をかけることを“コスト”ではなく、“投資”と考えるべきだと思います。社会が多様化していく中で、デザインは差異化しやすく企業価値を高める武器となりえます」
もともとグッドデザイン賞は1957年に旧通産省によって「グッドデザイン商品選定制度(Gマーク制度)」として創設され、メイド・イン・ジャパンの製品の輸出振興のために、よいデザインを選んでお手本とするところから始まった。60年代からは、企業がデザインを通じて高品質で低価格な製品開発に力を入れるようになり、海外でも市場を獲得。そこから70~80年代にかけては、これまでにない個性や利便性を持ったジャパンオリジナルのデザインが登場するようになった。
その後、90年代に入り環境問題への意識が高まると、グッドデザイン賞も「インタラクションデザイン」「ユニバーサルデザイン」「エコロジーデザイン」などの特別賞が登場する。
「この頃、日本デザイン振興会も民営化され、よりよいデザインを見つけ、社会へ伝えていく活動へと発展していきました。それに伴い、デザインの領域も製品から建築、情報・メディアまで拡大し、さらに2000年代には生活者視点が加わり、ファッション・プロジェクト、医療器具などが大賞に選ばれるようになったのです」(津村氏)
10年代に入ってからはSNSやクラウドの浸透によって共有・協働をもとにサービスやシステムといった機能に着目したものも評価されるようになった。では、最近の傾向はどうなのか。津村氏はデザインのあり方自体が大きく変わるようになったと語る。
「今は審査のカテゴリーにスパッと分けられないほど多様化しています。それだけデザインの価値があらゆる分野に浸透していると言えるでしょう。今回大賞に選ばれた富士フイルムの『結核迅速診断キット』も見た目のデザイン性が高いだけではなく、開発途上国で使えるよう、シンプルで使いやすく、わかりやすく、手に入りやすいもので作成されている。現実に即した課題を解決するデザインとなっています。その意味でも、社会問題を顕在化し、解決していくデザインが今、広がっているのです」(津村氏)
グッドデザイン賞は世界的にも高い評価を得ており、現在ではタイ、インド、シンガポールなどアジア各国とも連携している。同時に、その象徴である「Gマーク」は企業の商品開発やマーケティングだけではなく、人材採用などさまざまな面で大きなメリットをもたらしていると津村氏は言う。
「多様化する社会の中で、デザインの可能性は今大きく広がっており、そこから最先端のイノベーションも生まれています。デザインは新たな創造への気づきを生む可能性に満ちています。ビジネスにおいても、一部の人ではなく、多くの人がデザインを活用する時代に入っていくでしょう。グッドデザイン賞は、これからも多くの企業や団体にとって、新たな価値を生み出すためのきっかけづくりに貢献したいと考えています」