グッドデザイン賞が強くするビジネスの価値 今なぜ企業は「良いデザイン」に注目すべきか

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デザインが社会を変えていく

デザインが社会を変えていく。それを証明したのが、これから紹介する企業や団体だ。大賞を受賞した富士フイルム「結核迅速診断キット」をはじめ、金賞を受賞した各団体の取り組みは、デザインの力、その可能性を非常に強く感じさせるものとなっている。その取り組みの内容を具体的に見ていくことにしよう。

グッドデザイン大賞
富士フイルム「結核迅速診断キット」※1

デザインによって社会課題を解決していく。そんな試みに積極的に取り組んでいるのが富士フイルムだ。同社では、幅広い事業・研究にデザイナーが参画し、新たなイノベーションを起こすべく日々努力を重ねている。これまでにもグッドデザイン賞や海外のデザイン賞などを多数受賞してきた同社だが、2019年度に初めてのグッドデザイン大賞を受賞することになった。デザイン担当者に話を聞いた。

デザインを重視する富士フイルムにあって、初の大賞という栄誉に輝いたのが「結核迅速診断キット」である。結核は世界3大感染症の1つで、年間約170万人が亡くなるという大きな社会課題であるが、簡便な検査方法がないために多くの人々が検査や治療から取り残されているという。

そこで、同社は写真フィルムや“写ルンです”の開発で培ってきた技術を応用することで、尿を検体として用いる簡便な結核検査キットの開発に成功した。銀塩写真時代に培ったシーズを、開発途上国の医療課題解決につなげるという画期的な取り組みが共感を得て大賞を受賞、同社のイノベーションを象徴するプロジェクト(※2)になった。

同社デザインセンターのプロダクトデザイングループ・デザインディレクターの千田豊氏は次のように語る。

富士フイルム デザインセンター
プロダクトデザイングループ
デザインディレクター
千田 豊氏

「グッドデザイン賞は、美観という表層的なデザインだけでなく、その内側にある技術や背景にあるストーリーまで含めた、ものづくりの総合力としてデザインを評価してくれる賞だと思います。まさに時代や社会に求められる製品を生み出すための指針ともいえ、開発のモチベーションをも向上させてくれるものになっています」

これまでの結核検査では、喀痰(かくたん)が検体として用いられてきたが、小児・高齢者などは喀痰採取が難しい。そこで同社の研究者たちは、写真フィルムの現像に用いる「銀塩増幅技術」を応用し、尿中にわずかに排出される結核菌特有成分に大きな銀粒子を生成させることで、その検出を可能にした。

しかし、この検査を開発途上国に広く展開するためには、電源や専用装置が不要で専門的なスキルがなくても使えること、そして大量供給できる安価なキットであることが求められた。この難しい課題の解決には、デザイナーと“写ルンです”の開発・生産を支えてきたベテラン技術者の奮闘があった。

何度も試行錯誤を重ねて完成させたその外観は、一切の無駄が省かれた機能的な形態で直観的に使い方と手順が理解できる。一人でも多くの命を救うため、使用環境に即した信頼性があふれるデザインとなっており、同社の総合力で作り上げた革新的な検査キットと言える。

左:同社デザインセンターの拠点であるCLAYスタジオ 右:「結核迅速診断キット」には写真フィルムの「銀塩増幅技術」や、“写ルンです”のボディの量産技術も役に立ち、全社的な技術の粋を結集した開発となった
富士フイルム デザインセンター
プロダクトデザイングループ
チーフ
大野 博利氏

困難を極めた開発の中でプロジェクトチームの指針となったのは“写ルンです”だったという。同社デザインセンターのプロダクトデザイングループの大野博利氏はこう語る。

「部品点数やコストを徹底的に削減しながら、誰もが失敗せずに使える製品にするというのは、まさに“写ルンです”と同じ考え方で、そのDNAを意識しながらのものづくりとなりました。今後も、富士フイルムならではの技術とデザインを生かし、社会から必要とされる製品・サービスの開発に取り組んでいきます」

※1:開発途上国向けの製品のため、日本での販売予定はなし
※2:プロジェクトは、開発途上国の感染症の制圧・撲滅を目指して活動するスイスの非営利組織FIND、ビル&メリンダ・ゲイツ財団や日本政府などが設立したグローバルヘルス技術振興基金GHITFundとの協働にて行われてきた

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