都心から45分、星空の世界遺産を目指す島 「観光客誘致=経済効果」だけではない理由
「星空保護区」に認定されれば、1年を通して、島の魅力をより多くの人々に感じてもらうことができる。もちろんそんな期待もあるが、覺正氏はこの取り組みの本質は「島の美しい環境を子どもたち、そして後世に残していくこと」だと話す。
これは、決して難しいことではない。例えば、夜になったら不要な電気を消す。島民がスイッチ1つ押す行動が、環境保全につながる。ほんの些細なことでも、島民1人ひとりが星空を意識することで、島の魅力を次の世代に渡すきっかけになるのだ。
NPO法人 神津島盛り上げ隊で理事長を務める中村圭氏も「『星空保護区』の取り組みは、星はもちろん、島には当たり前にある山や海、透明な水をはじめ、四季を通して島の魅力に敏感になることで、島民の“誇り”を育てられれば」と話す。
「高校から本州に渡り、大学、就職を経て、26歳で島に戻ってきました。子ども時代を過ごしたからといって、島のことをすべて知っているわけじゃないんです。いまだに島の年長者に教えられた場所に行き、その絶景に泣きそうになることがあります」(中村氏)
そんな中村氏は、自らの経験を生かして、島民や移住者、島を離れて暮らす島出身者など、島にかかわる人々をつなぐプロジェクト「HAPPY TURN/神津島」を手がけており、元中華料理店の店舗をリノベーションした活動拠点「くると」を運営している。
あるときは、放課後に集まってくる子どもたちの遊び場、またあるときは観光客がふらりと立ち寄る場として……。普段は接点のない人たちの間に、世代や立場を超えたつながりが自然と生まれているという。
この島の目指す「観光客の誘致」は、単なる経済効果ではない。
島周辺の海上にジェットスキーやバナナボートは浮かんでいない。リゾート施設があるわけでもない。観光用に整備されているものは少なく、人々の暮らしや文化そのものが魅力だったりする。ぶらりと歩いて出会った住民からしか得られない、ガイドブックに載っていない情報がたくさんある。島の自然を守り、島の暮らしを分け与えてくれる。観光上級者でも十分楽しめるであろう奥深さが、この島にはある。