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「東証上場」を目指す海外スタートアップ企業 「日本版預託証券(JDR)」の検討進む

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  • ⽇本取引所グループ(JPX)/東京証券取引所 制作:東洋経済ブランドスタジオ
近年、世界有数の高い流動性を誇り、投資意欲の高い個人投資家へのアクセスが可能な東証マザーズ市場が海外スタートアップ企業から関心を集めているという。とくに、日本でビジネスを展開している多くの海外スタートアップ企業は、東証マザーズなどの市場で資金調達を検討するフェーズに入っており、海外企業の上場スキームの1つである日本版預託証券(JDR)が注目を集めている。JDRは内国証券として区分されることから、日本の投資家にもなじみのある形式で株式が流通することとなる。そこで、東京証券取引所の上場推進部の担当者と、日本で唯一、JDRの受託業務を手がける三菱UFJ信託銀行の担当者に、その特徴や活用の魅力について聞いた。

活況な東証マザーズ市場が海外の企業からも注目される

東京証券取引所
上場推進部 上場支援担当 統括課長
永田 秀俊氏

東京証券取引所 上場推進部 上場支援担当 統括課長 永田秀俊氏は次のように話す。「ここ数年、東証での新規株式公開は非常に活況です。とくに、東証マザーズ市場は流動性が高く、円滑に資金調達を実施できる魅力的な市場として評価されています。2019年、国内市場に上場した94社のうち63社がマザーズで新規に上場しています。マザーズ上場企業は、インターネット関連企業などのスタートアップ企業が多く、これらの企業が事業に必要な資金を市場で調達したうえで、上場後、成長を加速させるというシナリオが定着しています。活況なマザーズ市場は、日本国内のみならず、海外の企業からも注目を集めています」。

東京証券取引所
上場推進部 主任
染井 健吾氏

東証は世界有数の時価総額と流動性に強みがある。上場推進部主任の染井健吾氏によれば「19年12月末時点での東証株式市場全体の時価総額は約673兆円(マザーズ市場は約6兆4487億円)とアジアの市場ではトップ、世界でも3位となっています。売買も活発で、19年の東証一部の1日平均売買代金は2兆4822億円(マザーズ市場は1033億円)となっています。世界のどこの市場で上場しようかと考えたときに、東証マザーズ市場が選択肢の1つになる時代が来ると確信しています」と力強く語る。

マザーズ市場の特徴の1つは、機関投資家だけではなく、個人投資家の売買が活発なことだ。流動性を支える投資意欲の高い投資家層にアクセスできるのも成長著しいスタートアップ企業にとって大きな魅力だろう。ちなみに、東証上場に関心を持っている海外企業の所在地域などに共通するものはあるのだろうか。

永田氏によれば「米国シリコンバレーや東南アジアに拠点を置くスタートアップ企業から東証上場制度や市場状況に関するお問い合わせが増えています。これらの地域では起業が活発に行われており、世界中のベンチャーキャピタルといったプロ投資家が海外スタートアップ企業に投資をしており、魅力的な上場市場を探しています。海外で起業する日本人も増えていることから、そういった方々にとっても日本市場は魅力的に映ると考え、アプローチをしています。東南アジアでは、東証マザーズが流動性などの観点から有力な市場の1つとなりつつあり、今後、海外スタートアップから、資金調達の場として、ますます利用されることを期待しています」とのことだ。

投資家に人気の有望業種はインターネット関連企業が中心

海外企業からの関心が増えているのに合わせて、東証自身も海外でのプロモーション活動や上場支援活動を行っている。

東京証券取引所
上場推進部
深澤 みなみ氏

上場推進部の深澤みなみ氏は、具体的なプロモーションの内容について次のように紹介する。「直近では、米国やシンガポール、中国、香港、台湾、マレーシア、インドネシア、インドなどにおいて、現地企業が集まるカンファレンスやセミナーに登壇し東証上場の魅力を発信しています。また、海外スタートアップ企業だけではなく、現地の証券会社や監査法人、ベンチャーキャピタル、機関投資家などと積極的な情報交換を行い、同時に、海外の市場調査を実施しています。これまでの活動を通じて、海外から日本への関心が高まっていると感じており、国際資本市場としての東証の認知度が徐々に向上していることを実感しています」。

一般的に海外企業が東証に上場する場合、日本で商品やサービスを提供する拠点として、まずは日本法人や子会社を設立し、それらが上場するという場合もある。現在東証上場に関心を持っている企業は日本でのビジネスとの関連はあるのだろうか。

その問いに永田氏は「最近では商品やサービスがグローバル化し国境の垣根がなくなりつつあります。海外で開発されたスマートフォンのアプリを日本のユーザーが購入し利用するというのも当たり前です。今後は、海外でビジネスを展開しているスタートアップ企業が東証に上場するケースも増えてくる可能性もあることから、『日本にいながらにして、海外でビジネスを展開している成長企業に投資をする』ことが珍しくなくなることも考えられます。海外では、AI(人工知能)やビッグデータ、ドローン、宇宙ビジネス、ヘルスケア、アドテック(インターネット広告)、フィンテックなどさまざまな分野で、テクノロジーに優れたスタートアップ企業が登場しており、こうした企業へのアプローチを強化していきたい」と答える。

海外企業の東証上場の新たな仕組み「JDR」とは

海外企業が東証に上場するには直接上場(外国籍)や日本法人(内国籍)の上場などの方法がある。海外企業が東証上場を検討するにあたっては、どのようなスキームが考えられるのだろうか。

三菱UFJ信託銀行 法人マーケット統括部
エグゼクティブアドバイザー
星 治氏

「近年になって、ここにもう1つ、『日本版預託証券(JDR)』という新たなスキームが加わりました。JDRは内国証券扱いになるため、発行体企業にとっては、外国法人のままで日本株と同様な扱いを受けて東証に上場できるのが大きな特徴です」と語るのは、三菱UFJ信託銀行 法人マーケット統括部 エグゼクティブアドバイザーの星治氏だ。

星氏は早くから、信託の枠組みを利用し貴金属の現物を裏付けにしたETFを上場させるなど、先進的な上場商品のスキーム開発では、国内のパイオニア的存在だ。

「JDR(Japanese Depositary Receipt)は米国で普及している預託証券(DR)の日本版で、信託法、金融商品取引法改正を契機に07年に導入されました。海外企業は、自社の株式を信託で包むことで、日本の資本市場で日本株のように資金調達、流通させることが可能となります」

星氏によれば、JDRは原株式を信託財産とする受益証券発行信託の受益証券を発行するというスキームになっているという。現在、国内で同スキームを取り扱っているのは、三菱UFJ信託銀行だけだ。

三菱UFJ信託銀行 法人マーケット統括部
海外証券代行企画室 調査役
髙橋 惇氏

同行 法人マーケット統括部 海外証券代行企画室 調査役の髙橋惇氏は、「スキーム自体は高度なものですが、個人投資家の方にとってはいつも利用されている証券会社で日本株と同様に売買していただけます。外国証券取引口座の開設も不要で、日本の法令、税法上で取り扱われます」と話す。多くの証券会社で、信用取引も可能だという。

星氏は「海外企業にとっては、従来の方法である直接上場では十分に得られなかった東証上場のメリットを享受できることから、最近ではJDRのスキームを利用して東証マザーズなどに上場しようと考える海外企業が増えています。17年9月には、外国株JDR第1号として米シリコンバレーに本社のある半導体ベンチャーのテックポイント・インクが東証マザーズに上場しました」と語る。

テックポイント社は監視カメラや車載カメラ向けの半導体を手がけており、中国の大手車載機器メーカーにも同社の製品が採用されている。日本での資金調達のほか、日本の優秀な半導体エンジニアを獲得するために、日本での知名度を上げたいというのも日本での上場を決めた理由だという。

JDRスキーム図
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・JDRとは、Japanese Depositary Receiptの略
・原株式を信託財産とする受益証券発行信託の受益証券(金商法2条1項14号)
・発行者(金商法上の開示義務者)は原株式の発行者
・内国証券扱いとなる点に特徴

海外企業のJDR上場拡大で東証の存在感もますます高まる

「テックポイントの上場以降、風向きが変わってきています。これからはJDRを利用した東証上場が本格化すると期待しています」と星氏は語る。

一方、JDRといえども、投資家との対話は必要だろう。そのあたりはどう取り組めばいいのだろうか。星氏は次のように話す。「投資家は日本株と同様にJDRを購入できるわけですが、そのためには同様な情報が入手できることが前提になります。日本の投資家にもわかりやすいような情報を十分に的確に提供することが必要です。日本の投資家との対話を密にするために日本に小さな拠点などを置くのも1つの方法です」。

髙橋氏は「上場は決してゴールではなく、スタートと考えており、上場後は海外のスタートアップ企業が日本の個人投資家や機関投資家としっかり対話をしていくために、われわれも全力でサポートしていきます」と語る。同行は証券代行機関として株主総会実施の支援などで実績があるが、海外企業に対してもきめ細かく対応するという。

改めて、JDRは発行体企業にとっても、投資家にとっても魅力的な仕組みであることが感じられる。テックポイント・インクに続く、第2号、第3号のJDR上場企業が出てきてほしいところだ。

外国企業の東証上場の主なスキーム(比較表)

国内唯一のJDRプロバイダーとして大きな存在感のある三菱UFJ信託の髙橋氏は「現在、日本で展開されているスタートアップ・エコシステムでは、日本オフィスの設立や事業会社・潜在投資家とのマッチングなどがソリューションの主流ですが、その延長線上として、『東証上場による資金調達』という選択肢もあり得ることを示していきたいところです。上場が実現すれば、調達資金のすべてあるいは一部が国内でも還流するわけで、結果として日本経済の活性化に資するものと考えます。今後は、本取り組みを通じて日本のスタートアップ・エコシステムに新たなピースを加えていきたいです」と力を込める。

星氏は「世界で、地政学リスクなどが高まりつつある一方で、日本は社会が安定しており、個人の金融資産が1800兆円もある。このような環境で上場することは大きなメリットがあるといえます。大げさでなく、東証の存在感が今後、世界の金融市場でますます高まる可能性があります。JDRがそのきっかけになると自負しています」と結んだ。

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