「東証上場」を目指す海外スタートアップ企業 「日本版預託証券(JDR)」の検討進む
活況な東証マザーズ市場が海外の企業からも注目される
東京証券取引所 上場推進部 上場支援担当 統括課長 永田秀俊氏は次のように話す。「ここ数年、東証での新規株式公開は非常に活況です。とくに、東証マザーズ市場は流動性が高く、円滑に資金調達を実施できる魅力的な市場として評価されています。2019年、国内市場に上場した94社のうち63社がマザーズで新規に上場しています。マザーズ上場企業は、インターネット関連企業などのスタートアップ企業が多く、これらの企業が事業に必要な資金を市場で調達したうえで、上場後、成長を加速させるというシナリオが定着しています。活況なマザーズ市場は、日本国内のみならず、海外の企業からも注目を集めています」。
東証は世界有数の時価総額と流動性に強みがある。上場推進部主任の染井健吾氏によれば「19年12月末時点での東証株式市場全体の時価総額は約673兆円(マザーズ市場は約6兆4487億円)とアジアの市場ではトップ、世界でも3位となっています。売買も活発で、19年の東証一部の1日平均売買代金は2兆4822億円(マザーズ市場は1033億円)となっています。世界のどこの市場で上場しようかと考えたときに、東証マザーズ市場が選択肢の1つになる時代が来ると確信しています」と力強く語る。
マザーズ市場の特徴の1つは、機関投資家だけではなく、個人投資家の売買が活発なことだ。流動性を支える投資意欲の高い投資家層にアクセスできるのも成長著しいスタートアップ企業にとって大きな魅力だろう。ちなみに、東証上場に関心を持っている海外企業の所在地域などに共通するものはあるのだろうか。
永田氏によれば「米国シリコンバレーや東南アジアに拠点を置くスタートアップ企業から東証上場制度や市場状況に関するお問い合わせが増えています。これらの地域では起業が活発に行われており、世界中のベンチャーキャピタルといったプロ投資家が海外スタートアップ企業に投資をしており、魅力的な上場市場を探しています。海外で起業する日本人も増えていることから、そういった方々にとっても日本市場は魅力的に映ると考え、アプローチをしています。東南アジアでは、東証マザーズが流動性などの観点から有力な市場の1つとなりつつあり、今後、海外スタートアップから、資金調達の場として、ますます利用されることを期待しています」とのことだ。
投資家に人気の有望業種はインターネット関連企業が中心
海外企業からの関心が増えているのに合わせて、東証自身も海外でのプロモーション活動や上場支援活動を行っている。
上場推進部の深澤みなみ氏は、具体的なプロモーションの内容について次のように紹介する。「直近では、米国やシンガポール、中国、香港、台湾、マレーシア、インドネシア、インドなどにおいて、現地企業が集まるカンファレンスやセミナーに登壇し東証上場の魅力を発信しています。また、海外スタートアップ企業だけではなく、現地の証券会社や監査法人、ベンチャーキャピタル、機関投資家などと積極的な情報交換を行い、同時に、海外の市場調査を実施しています。これまでの活動を通じて、海外から日本への関心が高まっていると感じており、国際資本市場としての東証の認知度が徐々に向上していることを実感しています」。
一般的に海外企業が東証に上場する場合、日本で商品やサービスを提供する拠点として、まずは日本法人や子会社を設立し、それらが上場するという場合もある。現在東証上場に関心を持っている企業は日本でのビジネスとの関連はあるのだろうか。
その問いに永田氏は「最近では商品やサービスがグローバル化し国境の垣根がなくなりつつあります。海外で開発されたスマートフォンのアプリを日本のユーザーが購入し利用するというのも当たり前です。今後は、海外でビジネスを展開しているスタートアップ企業が東証に上場するケースも増えてくる可能性もあることから、『日本にいながらにして、海外でビジネスを展開している成長企業に投資をする』ことが珍しくなくなることも考えられます。海外では、AI(人工知能)やビッグデータ、ドローン、宇宙ビジネス、ヘルスケア、アドテック(インターネット広告)、フィンテックなどさまざまな分野で、テクノロジーに優れたスタートアップ企業が登場しており、こうした企業へのアプローチを強化していきたい」と答える。