「夢の続き」を見るためのニュータウン再生 民産学官がスクラムを組んで取り組む
「ニュータウンブームもあり、神奈川県内に限らず各地から入居者が集まりました。住民たちは自分たちのまちという意識が強く、コミュニティ活動なども盛んでした」
40年前からこのまちに住んで、現在は上郷ネオポリスまちづくり協議会の座長を務める吉井信幸氏は語る。
「住民は団地と港南台駅を結ぶバス路線の開設を要望して実現するなど、ずっとまちづくりをしてきました。一方で高齢化が進み、エリア内に十数軒あった商店や食堂もみな閉まり、小学校もなくなって、なんとかしなければと焦燥感に駆られていました」(吉井氏)
そんなとき、まちの見守りネットワークの活動をしていた齋藤昇氏と船野智子氏が立ち上がった。もう間もなく81歳になるという齋藤氏が語る。
「坂の途中で、重そうな買い物袋を抱えて休む人の姿を見かけたことがありました。そこにはベンチなど座る場所もない。それを見て、『これではいけない、まちのためになることをしなければ』と思いました。けれども、全国各地で行われているまちづくりの多くが失敗しているのを見ていました。人、モノ、金がないからでしょう。また、住民の意見も千差万別。それをまとめるのは容易なことではありません。まちづくりのことをなかなか言い出せませんでした」
住民が主役となるまちづくりプロジェクト始動
そうして齋藤氏、船野氏が思い悩んでいたころ、この団地を開発した大和ハウス工業も高齢化が進むまちの調査研究を始めていた。
大和ハウス工業でヒューマン・ケア事業を担当する瓜坂氏は次のように語る。
「超高齢社会と言われますが、世の中には介護が必要な人よりも元気な高齢者のほうがずっと多いのが実情です。そんな方々に当社はサービスを展開できていませんでした。私は、そういう仕事がしたいと手を挙げ、現状やニーズを調べてさまざまなプロジェクトに取り組みました。例えば、映画づくりを通じて『つながり』を形成できないか、と考えお年寄りたちが主役の映画をつくったこともありました。
そうして試行錯誤する中で気づいたのは、『中途半端な思いでは失敗する』ということです。本気で取り組まなければ、受け入れてもらえません。当社が開発してから50年近く経過した上郷ネオポリスは住民の高齢化や商店街の衰退と課題が多く、本腰を入れて再生に取り組もうと考えました」(瓜坂氏)
こうして齋藤氏や船野氏らとの意見交換が始まり、自治会内に「ネオポリスまちづくり委員会」を設置。16年には民産学官が連携した「上郷ネオポリスまちづくり協議会」を発足させた。同協議会は、上郷ネオポリス自治会や一般社団法人高齢者住宅協会、東京大学、明治大学ならびに大和ハウス工業で構成されている。
17年に全戸住民アンケート調査を実施し(回収率88%)、「買い物が不便」「憩いの場が欲しい」などの要望が多かったことを受け、コンビニ併設型のコミュニティ施設「野七里テラス」の建設に踏み切ったのだった。