真に役立つAIサービスのために NTTテクノクロス AIセミナー2020
主催:NTTテクノクロス
ごあいさつ
開会あいさつで、NTTテクノクロスの串間和彦社長は、1980年代の第2次AIブーム時からAIを使った製品で実績を持つ同社の歴史を振り返り、「当時はさまざまな制約があったが、今の第3次ブームのAIは使えるものになってきた」と語った。同社は2018年に「AIファースト」を宣言して、AIを組み込んだ製品サービス作りを推進。19年、NTTグループが発表した、エンド・ツー・エンドを結ぶ光ネットワークで、AIなどを高度に活用できるようにする次世代ICTインフラ「IOWN(アイオン)」構想にも積極的に関わっている。
同社は、NTT研究所の子会社を再編して17年に設立。以前は同研究所からの研究施策受注が主だったが、そこで蓄積してきた技術、ノウハウを使った製品・サービスを一般市場に提供している。串間社長は「プログラムやソフトウェアの単なるモノ作りにとどまらず、そこにデータや分析結果、ノウハウを組み込んだAI時代の新しい製品・サービスを提供する『チエ作り』の会社を目指していきたい」と語った。
ゲスト講演
AI時代を生き抜くための経営戦略
AI技術・戦略を日本企業に導入するAIビジネスデザインカンパニー、パロアルトインサイト社を経営する石角友愛氏は、AIの浸透率が約40%の米国大手に対し、日本は1~5%程度と大きく後れを取っている現状を指摘。「あらゆることを変革する力を持ったAIは『新しい電気』ともいわれ、大企業だけでなく、中小企業でも導入が必要になる。AIを『人から仕事を奪う』といった脅威の対象とするのではなく、人とAIとの協業スキームを築くことが大事」と訴えた。
実用化されているAIは、具体的課題を解決する特化型AI(ANI)で、人の知能を再現する汎用型AI(AGI)とは異なる。ANIは、AIに与えるデータにラベル付けしたり、AIの答えを評価するなど「AIに教える」、AIが出した答えの意味をステークホルダーに「説明する」といった、人との協業が欠かせない。
カギを握るデータ収集
AIは、既成のパッケージ型か自社データを使って一から構築するカスタムメイド型かという軸。人の能力を強化するか作業を省人化するかの自動化型の軸、という2つの軸で位置づけすることができ、課題に合ったものを活用する。パッケージ型は、チャットボットなどのように簡単に導入できる反面、他社との差別化は難しい。競争力の向上を求めるなら、他社が容易にまねできないカスタムメイド型が望ましい、と説明。「AI開発の8割は、データ収集にかかっている。他社が持っていないデータが差別化につながるので、データ収集を軽視すると使えるAIにはなりにくい」と強調した。
カスタムメイド・自動化型AIの例では、パロアルトインサイト社が開発・導入を手がけた物流企業のAI配車システムの事例を紹介した。トラックの配車は、単に移動距離を最小化するだけでは不十分で、先に届けるべき配送先はどこか、といった現場の制約条件を反映しなければならないため、配車スケジュールを手作業で数時間かけて作る必要があった。導入したAIは、過去のパターンから制約条件を学習した割り付けができ、配車担当による最終チェックの修正内容も学びながら精度を高め、配車作業を短時間でできるようにした。石角氏は、AIを従来と同じシステム上で使えるようにするなど、現場との摩擦を抑えたことを成功要因に挙げ、「配車担当はAIに仕事を奪われるのではなく、AIをトレーニングする人材になることができ、協業スキームが生まれた」と語った。
AI導入、4つの視点
AI導入プロジェクトに向けて考えるべきこととして、石角氏は、複数の経営課題の中から、パロアルトインサイト社が独自に開発したFOME分析フレームワークを紹介した。AIが使うデータ収集の可否など実現可能性(Feasibility)のほか、開発するAIモデルを利用できる業務範囲などの応用性(Opportunity)、導入効果の検証可能性(Measurability)、AIの乱用を防ぐ倫理性(Ethics)の4つの視点で、AI導入を判断することを促した。
日本企業のAI導入が進まない理由の1つには、日本の技術人材がIT系企業に集中していて、経営や事業側の身近にいないという事情があり、「AIプロジェクトでは最初の段階から、信頼できるパートナーを入れることが大事」と述べた。
最後に、NTTテクノクロスの串間社長が、実証から先に進まなかったり、定着しにくい日本企業のAIプロジェクトの処方箋について質問。石角氏は、米国の大手企業がすでに02年時点で、AIのためのデータ収集パイプラインを整備してきたことに言及。「まさに、十数年かけてAIを構築してきた。AI投資は長期で考えることが大切」と語った。