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田原総一朗×神戸市長が語る「神戸市の逆襲」 人口減少はくい止められるのか!?

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  • 神戸市 制作:東洋経済ブランドスタジオ
神戸市というと洗練された都市というイメージを持つ人も多いだろう。ハイブランドのショップが立ち並び、異人館などの異国情緒あふれる観光資源も豊富。だが、そんな神戸市が今、意外にも「人口減少」という危機に直面しているという。逆境をはね返すべく、神戸市が打ち出す秘策とはどういったものなのだろうか。ジャーナリストで評論家の田原総一朗氏が神戸市長の久元喜造氏を直撃した。
田原 総一朗(たはら そういちろう)1934年滋賀県生まれ。60年、早稲田大学卒業後、岩波映画製作所に入社。64年、東京12チャンネル(現テレビ東京)に開局とともに入社。77年にフリーに。テレビ朝日系『朝まで生テレビ!』『サンデープロジェクト』でテレビジャーナリズムの新しい地平を拓く。2017年3月まで早稲田大学特命教授を歴任。テレビ・ラジオの出演多数。また、『日本の戦争』(小学館)、『塀の上を走れ 田原総一朗自伝』(講談社)など、多数の著書がある。

田原 私は同じ関西圏の滋賀県彦根市出身で子どもの頃から神戸は特別な街であり、港から海外に通じる開かれた都市というイメージを抱いてきました。その神戸では今、人口減少が進んでいるそうですね。まずは市長として神戸の問題点をどのように考えていますか?

久元 問題点は、ズバリ人口減少です。神戸市の人口は、長く日本の指定都市の中で5番目でしたが、福岡、川崎に抜かれ、今7番目です(※1)。人口は都市の活力の1つのバロメーターですから、現状は問題です。

やはりその背景には、阪神・淡路大震災があります。神戸市内だけで4571名の命が失われ、市街地も港も壊滅的な被害を受けました。震災からの復旧・復興、そして、その後に財政危機が追い打ちをかけました。このため、ほかの大都市が進めることができた先進的なまちづくりができませんでした。

久元 喜造(ひさもと きぞう)1954年兵庫県神戸市生まれ。76年、東京大学法学部卒業後、旧自治省入省。内閣官房内閣審議官、総務省自治財政局財務調査課長等を歴任し、2003年1月、総務省自治行政局行政課長に。その後、大臣官房審議官(地方行政・地方公務員制度、選挙担当)、自治行政局選挙部長、自治行政局長などを経て、13年11月、第16代神戸市長に就任。現在2期目。

神戸は山と海に挟まれた地形のため可住地面積が狭く、戦後は山裾が乱開発されました。その後、山を削って海を埋めることでニュータウンを開発してきましたが、それがオールドタウン化し、山麓部とニュータウンの両方から人口の流出が進行しています。近年では、東京のみならず、大阪や周辺都市への人口の流出も見られます。わが国全体の人口が減少している中、自然減は避けられませんが、神戸の人口吸引力を高め、社会増を増やしていかなければなりません。

田原 日本において、人口減少・少子高齢化は重要な問題です。人口減少は、関西全体の問題として考えなければならない。私は大阪、京都、神戸が関西の発展のためにもっと連携すれば、東京よりよくなるに決まっていると思っていますが、なぜ連携が進まないのか?

久元 田原さんの指摘のとおり、関西の大都市は、政策を競い合いながら、しっかりと連携を図り、東京一極集中に対抗していく使命があります。連携した取り組みの1つが、3つの空港(関西・伊丹・神戸)の一体的運用です。神戸空港はハブ空港である関西空港の補完役に徹し、災害時におけるバックアップ機能を果たします。

また、大阪・関西万博も決まりましたので、神戸空港や神戸港から万博の会場と行き来できるような高速フェリーの運航など、新しい形での連携にも取り組んでいきたいと思います。

田原 大阪では多くの企業が本社機能を東京に移しています。でも京都だけはなぜか残っている。人口減少と高齢化でダメージを受けているのは地方自治体です。なぜ神戸は「神戸ブランド」と言われるような良いイメージをもっと生かさないのですか? 巻き返しのために何をしていきますか?

 

出典:(※1)住民基本台帳に基づく人口、人口動態及び世帯数(総務省統計局)

久元 巻き返しのために、高層タワーマンションを林立させて人口を増やすという対策は取りません。現在、タワマン、とくに分譲型のタワマンでは、修繕積立金の不足が目立っており、将来老朽化が進んでも大規模修繕ができないような事態になれば、大きな問題になります。

また、都心居住のニーズに応える必要はありますが過度に居住機能が都心に集中すると、商業やビジネス、にぎわいが失われます。神戸市では三宮周辺のマンション建設を禁止しました。三宮周辺には商業・業務機能を集積させ、再整備を進めます。神戸の都心を大阪のベッドタウンにはしません。都心への人口集中を避け、郊外を含めた拠点駅の駅前を上質なデザインにも配慮しながら整備し、民間投資の呼び込みを図ります。

美しい港町の景色でも知られる神戸市。神戸の地形的な特徴を生かした都市空間の魅力の維持のためにもタワーマンションに関する規制は一役買うだろう

神戸が目指すのは、海と山の恵み、そしてブランド力を生かした“人間サイズのやさしいまち”です。神戸は六甲山を擁し、その北側には豊かな里山が広がり、自然、文化遺産、かやぶき民家などが存在する大変魅力的な地域です。日本でいちばんかやぶき民家が多い自治体は、意外に思われるかもしれませんが、神戸です(※2)

外国人観光客の間でも日本の自然や文化に関心が高まっている今、里山の自然と文化遺産が一体となったたたずまいを見せる神戸の田園地帯は、大きなブランド価値を持っていると言えます。農業体験などの一時的な訪問・交流から、農村地域への移住・定住を図る「神戸里山暮らし」というプロジェクトにも取り組んでいます。

神戸市の西区・北区には里山が広がっている

田原 多くの自治体は改革をできないからやらないと言っている。それでは駄目です。できないことをやるからこそ革新になる。神戸市として取り組んでいることは何ですか。

久元 今年の6月1日から北神急行という路線の運賃を半額にします。これは普通ではできない革新的な取り組みだと思います。里山が広がる神戸の北部の玄関口である谷上駅~三宮駅間(8.8km)の運賃を550円からほぼ半額の280円に引き下げ、交通利便性を高めます。北神急行は、市営地下鉄と相互乗り入れをしていますが、神戸市交通局が北神急行を買収することで一体運行を実現し、半額化できることになりました。

今の時代、「官から民へ」が常識とされていますが、市民目線で不可能を可能にするためなら、「民から官へ」の挑戦をしても一向に構わないと思います。

田原 神戸といえば、かつてスーパーマーケットで天下を取った大手企業の創業者の出身地でもありますね。阪神・淡路大震災後も「ピンチこそがチャンスだ」と言い切っていましたが、彼のような経営者はこれからの神戸で育ちますか? もっと産業をつくらなきゃなりませんよ!

 

出典:(※2)平成27年度 神戸市教育委員会 茅葺民家建物調査結果

久元 ゼロからビジネスをスタートさせる土壌がなければ都市は発展しません。スタートアップ支援は多くの自治体で取り組まれていますが、神戸の特徴は、海外に開かれていることです。米国・シリコンバレーに本社を置く世界で最もアクティブなアクセラレーター、500 Startupsがわが国で初めてのプログラムを神戸で展開し始めて4年になりますが、今では、応募者の6割が海外からの若者たちです。国内にとどまらず世界中から若い頭脳を神戸に呼び込み、神戸を起点に世界に羽ばたいてほしい。

震災後、新たにスタートさせた「神戸医療産業都市」もわが国で最大級のバイオメディカルクラスターに成長し、さらなる飛躍に向けてノーベル医学・生理学賞を受賞した本庶佑先生に神戸医療産業都市推進機構の理事長として、牽引していただいています。ヘルスケア分野でのベンチャーも続々と生まれており、次世代産業へと成長していくことでしょう。

田原 本当なら神戸はシリコンバレーみたいな街になってもいいはずです。しかし日本の大企業の研究所はほとんどシリコンバレーにあり、日本はイノベーションできない、チャレンジできない国だと言われています。この日本の大問題。神戸ならどうしますか?

久元 田原さんは六甲山をご存じだと思いますが、山上からは美しい夜景を楽しむことができます。この六甲山上でいま考えているのが「六甲山上スマートシティ構想」です。さまざまなテクノロジーを使った実験を行うとともに、スタートアップやベンチャー企業の皆さんがオフィスや拠点を構え、眼下の風景を眺めながら、自然の中でビジネスを展開できるようにする構想です。シリコンバレーとはまた違う雰囲気の創造的な知的拠点として具体化していきたいと考えています。

田原 なるほど、さらに挑戦していることはありますか?

久元 「人間にやさしいまちづくり」という観点から、認知症になっても安心して暮らせるまちを目指し、全国初の認知症「神戸モデル」をつくりました。これは認知症の検診(第1段階)、精密検査(第2段階)がすべて無料で受けられ、その後のケアに結びつけるほか、認知症の方が起こした第三者への損害について神戸市が一括して保険に加入して見舞金の支給や損害賠償を行うものです。その財源として、個人市民税を一律に400円引き上げる増税を行いました。市民の理解に感謝しています。

現役世代が減少していく中で、自治体がバラマキをやっているようでは駄目です。子どもの医療費を完全無料化するとか、給食を無償化するとか言って人口を呼び寄せようとする自治体もありますが、赤字地方債を発行して財源をやりくりしている現状では、今の子どもたちに将来負担を負わせるだけです。持続可能な都市経営のためには、受益と負担のバランスを考えるべきです。

今後も、人口減少を食い止めるため、テクノロジーを生かした「人間サイズのまちづくり」という観点から、神戸で住みたい、学びたい、働きたい、という方々を増やすための施策を展開することで、神戸のまちの魅力を向上していきたいと考えています。

田原 日本で今大事なことはイノベーションを行うことです。世界の都市と競っていくためにも神戸からのイノベーションに大いに期待しています。