モビリティ革命の進行と商社の役割 商社シンポジウム2019

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専門家講演
SDGsの目指す社会とモビリティ革命

神奈川県理事
(いのち・SDGs担当)
山口 健太郎氏

神奈川県の山口健太郎氏は、世界が2030年までに達成すべき17のゴールを定めた、国連のSDGs(持続可能な開発目標)をツールとして、社会課題を解決する施策を説明した。県は国の「SDGs未来都市」「自治体SDGsモデル事業」の両方に都道府県として唯一選定され、目標達成に向けた取り組みを推進。その一環として、最新のモビリティ技術を活用して、超高齢化や温暖化、産業創造、安全・安心の確保などの課題解決に挑戦。企業などと協力して、自動運転車による無人宅配サービス、イベント会場での自動運転バス運行などの実証実験のほか、CO2を排出しない燃料電池車や電気自動車の普及環境を整備。さらに高齢者の買い物を支援するタクシー配車サービスの割引クーポン配布まで、多彩な施策を展開する。「誰一人として取り残さない」理念を掲げるSDGsの達成には、行政だけでは限界があるとする山口氏は「17番目のゴールに挙げられている『パートナーシップで目標を達成しよう』の考え方が大切」と強調。世界共通で重要性を認識されているSDGsを介した、企業、アカデミア、市町村との連携を図る。さまざまな課題を解決する商品・サービスを世界中に届ける力を持つ商社にも「SDGsへの貢献を通じて、日本の存在感を高め、事業を発展させてほしい」と、連携を呼びかけた。

SOMPOの新規モビリティ事業創造について

損害保険ジャパン日本興亜
執行役員ビジネスデザイン戦略部長
中村 愼一氏

損害保険ジャパン日本興亜の中村愼一氏は、自動車保険市場の大幅な縮小が予想される自動運転時代の到来に備え、展開を急いでいる同社の新規モビリティ事業を紹介した。同社を傘下に置くSOMPOホールディングスは2019年春に、ディー・エヌ・エーとの合弁で、個人間カーシェア事業「Anyca(エニカ)」を引き継ぐ「DeNA SOMPO Mobility」と、マイカーリース事業の「DeNA SOMPO Carlife」を設立。さらに、駐車場シェア事業の「akippa」(あきっぱ)に出資、グループ会社として、3社が連携したモビリティサービスを構想。Carlife社がリースした車を、エニカで貸し出すことを認め、リース契約者は、車と自宅駐車場のシェア収入を得ることで、リース料負担を軽減できるようにする。これにより経済的負担で諦めていた人に、マイカーを持つ可能性を広げ、自動車保険市場の拡大も狙う。また、保険契約者データを一元化したデジタルマーケティングプラットフォームを構築し、カーリースの見込み客を創出。居住地域などから、シェア収入の見込み額を算出し、同社の保険代理店網も使ったレコメンドも検討している。商社に対しては「このビジネスモデルを共に海外展開するための提案をいただきたい」と呼びかけた。

JR東日本におけるモビリティ変革への取組

東日本旅客鉄道
技術イノベーション推進本部
ITストラテジー部門次長
中川 剛志氏

JR東日本の中川剛志氏は、鉄道を核に社外と連携して、ドアtoドアでストレスなく移動できるモビリティサービス実現に向けた取り組みを語った。同社は、ほかの公共交通、二次交通、通信の事業者や、飲食・物販・宿泊などのサービス事業者、自治体などと連携。スマートフォン上で、観光地の飲食店や移動手段の検索、予約、決済ができる観光型MaaS構築を進めている。また、同社主宰で約160団体が参加する「モビリティ変革コンソーシアム」でも、ドアtoドア、スマートシティなどの作業グループが活動。シェアサイクルやタクシーなどの交通手段をワンストップでつないで、利用・決済ができるアプリ「Ringo Pass(リンゴパス)」、気仙沼線・大船渡線を走るBRT(バス高速輸送システム)を将来にわたって維持するための自動運転化、移動履歴記録アプリのデータを使って利用者にパーソナライズした情報を提供するサービス――の実証実験を展開する。コンソーシアムの事務局長の中川氏は「駅から駅までにとどまらず、出発地から目的地までのシームレスな移動を、コラボレーションで実現したい」と展望。商社の強みである、組み合わせでビジネスをパッケージ化や、ローカル化する力、グローバルな視点を「われわれと共有してほしい」と期待した。

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