
主催:一般社団法人 日本貿易会
【広報委員会】伊藤忠商事/稲畑産業/岩谷産業/兼松/興和/CBC/JFE商事/住友商事/双日/蝶理/豊田通商/長瀬産業/日鉄物産/阪和興業/日立ハイテクノロジーズ/丸紅/三井物産/三菱商事
協力:住商アビーム自動車総合研究所
東洋経済新報社
開会挨拶
(住友商事取締役会長)
中村 邦晴会長
自動車ビジネスにも携わった経験のある日本貿易会の中村邦晴会長は、ここ数年のモビリティ革命のインパクトは「これまでの体験を質量ともに圧倒している」と語った。モビリティサービスは、とくに公共交通インフラが脆弱な地方において、車の運転が難しくなった高齢者の外出時の移動手段として高齢化に伴う課題の1つを解決し、電気自動車の普及は温暖化対策にも貢献すると、前向きなチャンスとして側面を強調。就業人口546万人の国内自動車産業をモビリティ革命後も基幹産業として維持・発展することは、日本経済の発展に不可欠とした。同会がキャッチフレーズに掲げる「未来をカタチに 豊かな世界へ」を体現できるモビリティ革命の推進のため、中村会長は「商社業界も尽力したい」と述べた。
基調講演
モビリティから始める創造生産性革命
グローバル共同代表兼日本法人代表取締役社長
長島 聡氏
経済産業省の自動車新時代戦略会議委員も務めるローランド・ベルガーの長島聡氏は、欧米平均の3分の2に低迷する日本の生産性(=価値÷時間)の現状を指摘。コスト削減だけでなく、価値を大きくすることに着目した「創造生産性」を向上させるべきと強調した。そのためには「新しい価値を構想し、それぞれが持つ得意技を『ありもの』として組み合わせ、素早く作り出すことがカギになる」と訴えた。
モビリティ産業の創造生産性向上には、効率的な移動を追求するだけでなく、移動や滞在の需要を創出し、出会いや交流を促進し、GDPを拡大していくことが求められる。人口の多い都市部での収益化のポイントは、付加価値の高いソリューションの品ぞろえを充実させ、新たな移動需要を喚起。一方、人口減少、高齢化が進む地方では、安価なソリューションの組み合わせや、移動ルートの選択と集中により、最小スペックで満足度の高いサービスを実現する。
同社が、移動量増大による経済、地域の活性化を目指して設立した、社内ベンチャー「みんなでうごこう!」プロジェクトは、地域住民を巻き込んで移動需要を創出するための企画を討議したり、「ありもの」の技術で、これまでにないコンセプトの近距離移動用小型EVを開発して、東京モーターショーでデモ走行するといった活動をしている。新たなモビリティ社会の構想には「ありもの」の活用のほか、異質なものから刺激を受けてアイデアを得ることや、社会を俯瞰できる視座、できることから小さなトライアルを重ねる機動力――などが重要とした。長島氏は、多様性を備え、視野の広さ、開拓精神に富む「商社が得意とするところだと思うので、活躍に期待している」と語った。
専門家講演
SDGsの目指す社会とモビリティ革命
(いのち・SDGs担当)
山口 健太郎氏
神奈川県の山口健太郎氏は、世界が2030年までに達成すべき17のゴールを定めた、国連のSDGs(持続可能な開発目標)をツールとして、社会課題を解決する施策を説明した。県は国の「SDGs未来都市」「自治体SDGsモデル事業」の両方に都道府県として唯一選定され、目標達成に向けた取り組みを推進。その一環として、最新のモビリティ技術を活用して、超高齢化や温暖化、産業創造、安全・安心の確保などの課題解決に挑戦。企業などと協力して、自動運転車による無人宅配サービス、イベント会場での自動運転バス運行などの実証実験のほか、CO2を排出しない燃料電池車や電気自動車の普及環境を整備。さらに高齢者の買い物を支援するタクシー配車サービスの割引クーポン配布まで、多彩な施策を展開する。「誰一人として取り残さない」理念を掲げるSDGsの達成には、行政だけでは限界があるとする山口氏は「17番目のゴールに挙げられている『パートナーシップで目標を達成しよう』の考え方が大切」と強調。世界共通で重要性を認識されているSDGsを介した、企業、アカデミア、市町村との連携を図る。さまざまな課題を解決する商品・サービスを世界中に届ける力を持つ商社にも「SDGsへの貢献を通じて、日本の存在感を高め、事業を発展させてほしい」と、連携を呼びかけた。
SOMPOの新規モビリティ事業創造について
執行役員ビジネスデザイン戦略部長
中村 愼一氏
損害保険ジャパン日本興亜の中村愼一氏は、自動車保険市場の大幅な縮小が予想される自動運転時代の到来に備え、展開を急いでいる同社の新規モビリティ事業を紹介した。同社を傘下に置くSOMPOホールディングスは2019年春に、ディー・エヌ・エーとの合弁で、個人間カーシェア事業「Anyca(エニカ)」を引き継ぐ「DeNA SOMPO Mobility」と、マイカーリース事業の「DeNA SOMPO Carlife」を設立。さらに、駐車場シェア事業の「akippa」(あきっぱ)に出資、グループ会社として、3社が連携したモビリティサービスを構想。Carlife社がリースした車を、エニカで貸し出すことを認め、リース契約者は、車と自宅駐車場のシェア収入を得ることで、リース料負担を軽減できるようにする。これにより経済的負担で諦めていた人に、マイカーを持つ可能性を広げ、自動車保険市場の拡大も狙う。また、保険契約者データを一元化したデジタルマーケティングプラットフォームを構築し、カーリースの見込み客を創出。居住地域などから、シェア収入の見込み額を算出し、同社の保険代理店網も使ったレコメンドも検討している。商社に対しては「このビジネスモデルを共に海外展開するための提案をいただきたい」と呼びかけた。
JR東日本におけるモビリティ変革への取組
技術イノベーション推進本部
ITストラテジー部門次長
中川 剛志氏
JR東日本の中川剛志氏は、鉄道を核に社外と連携して、ドアtoドアでストレスなく移動できるモビリティサービス実現に向けた取り組みを語った。同社は、ほかの公共交通、二次交通、通信の事業者や、飲食・物販・宿泊などのサービス事業者、自治体などと連携。スマートフォン上で、観光地の飲食店や移動手段の検索、予約、決済ができる観光型MaaS構築を進めている。また、同社主宰で約160団体が参加する「モビリティ変革コンソーシアム」でも、ドアtoドア、スマートシティなどの作業グループが活動。シェアサイクルやタクシーなどの交通手段をワンストップでつないで、利用・決済ができるアプリ「Ringo Pass(リンゴパス)」、気仙沼線・大船渡線を走るBRT(バス高速輸送システム)を将来にわたって維持するための自動運転化、移動履歴記録アプリのデータを使って利用者にパーソナライズした情報を提供するサービス――の実証実験を展開する。コンソーシアムの事務局長の中川氏は「駅から駅までにとどまらず、出発地から目的地までのシームレスな移動を、コラボレーションで実現したい」と展望。商社の強みである、組み合わせでビジネスをパッケージ化や、ローカル化する力、グローバルな視点を「われわれと共有してほしい」と期待した。
若手・中堅の商社パーソンが語る
『モビリティ革命の進行と商社の役割』

電子・デバイス部門電子事業創造室
延川裕樹氏
兼松の延川裕樹氏は米国西海岸で、電気自動車(EV)ユーザー向けスマホアプリサービスの実証実験を展開。EVの航続距離や充電器稼働状況を表示して、適切な充電場所を選択できる機能を提供し、EVユーザーを支援する。充電時間の長さが課題と指摘した延川氏は、提供中の充電器利用実績情報に加え、ストレスなく充電を待てるよう充電器近辺のカフェ等の情報提供を構想中。その実現のために「社会のあらゆるデータを提供し合えるように企業間の信頼醸成を図りたい」と話した。
モビリティサービス事業第二部部長付
近藤良太氏
住友商事の近藤良太氏は、出向先の自動車メーカーでモビリティサービスの企画、事業化を担当。住友商事従業員対象のオンデマンド・バス・サービスの実証なども手がける。高齢化の進展などで重要性を増す移動サービスを「行きたい時に行きたい場所に行ける『どこでもドア』のようにしたい」と話す近藤氏は、小売り、ITなど多彩な事業をグループに持つ商社の総合力を生かした事業を検討。ほかの企業のモビリティ事業計画も支援しながら「企業間連携で、新しいビジネスを作りたい」と語った。
ネクストモビリティエレクトロニクス事業部
自動運転PFグループリーダー
永久保太一氏
豊田通商の永久保太一氏は、複数台のトラックが通信でデータをやり取りしながら1列に並んで高速道路を走る「隊列走行」の国実証事業で事務局を担当。空気抵抗削減による燃費改善のほか、後続トラックを無人化すれば運転手不足の解決につながると期待されている。ただ、技術的に可能であっても、実装段階では、ドライバーの休憩の困難さなどの課題も浮上するとして、「技術ありきではなく、実現を目指す際にユーザーのメリットを明確にして、現実的な事業にしていく必要がある」と強調した。
航空宇宙・防衛事業部部長代理(兼AIRO社取締役)
片岡康弘氏
丸紅の片岡康弘氏は、訪日外国人客増加に伴って増える海外航空会社便に提供する、グランドハンドリング業務の人手不足を解決するため、空港内での車両の自動運転に取り組んでいる。現在は、実証実験により想定外のさまざまな障害をクリアしている段階で「まず空港という限られたエリアで自動運転の成果を出せば、公道へとエリアを広げられる」とした片岡氏は「世の中の役に立ちたいという熱い思いを持つ商社の仲間、ライバルの皆さんと変革を牽引したい」と語った。
佐々木明子氏
最後にファシリテーターのテレビ東京、佐々木明子氏が「業界の垣根をなくすモビリティ革命の時代には、商社の皆さんが人と人を『つなぐ』人間力を発揮することが大事になる」とまとめた。