今求められる「自己を変革し続ける」経営者 社長の「知性」レベルが組織の将来を決める
キーガン 従来のコーチングは、例えば「支配的な姿勢を取らない」「もっと他人に協力的になる」といったゴールを設定し、それに向かって改善する行動を増やし、阻害行動を改める直線的なアプローチを取ります。
このやり方は早い段階でリターンを得られる半面、時間が経つと元の木阿弥になってしまいがちです。結局、症状への対処だけで根本的な原因の治療にはなっていないからです。これに対し、ITCは自分自身の中にある、阻害行動を引き起こす根本的な原因を合理的に突き詰め、明らかにしていきます。
成人発達理論の研究を進めていく中で、ハーバード大学以外でITCの実践の場を求めたときに出会ったのがエゴンゼンダーでした。エゴンゼンダーは、まず自社でITCを実践し、効果を確認したうえでクライアント企業に提案しています。
なかでも、ITCを通して東京オフィスが遂げた変化は目覚ましく、私が初めて丸山さんに出会った6年前から大きな変化を遂げていると実感しています。丸山さんは日本で一番最初にITCのコーチング資格を取得しましたね。
丸山 私自身、ITCの効果を実感し、企業のリーダーにぜひ体験してほしい、と強く感じたのです。以前私は他者に厳しいフィードバックをすることが苦手でした。フィードバックに必要な知識やスキルは身に付けていたにもかかわらず、です。
最初は「相手に嫌われたくない気持ち」が原因だと思っていましたが、ITCを用いて深掘りしていくと、実はそうではなく、幼少期の体験に基づく「相手がフィードバックを受け入れなかったとき、自分の感情が乱れて制御できなくなることへの恐れ」が根本的な原因だとわかりました。これに気づけたことで、「本当に、厳しいフィードバックをすると感情を制御できなくなるのか」という疑問を持てるようになりました。
親しい知人を相手に安全な環境下で実験し、実際に感情を制御できた小さな成功体験を積み重ねて自信を得、今はフィードバックを苦と思わなくなりました。 現在私は日本の代表と、グローバルの人事担当役員の役目を頂いていますが、これらの職務において他者に適切にフィードバックする力は非常に役立っています。
自己変革を、組織変革につなげるには?
――人が変わりたいと思ってもなかなか変われない根本的な原因とはなんでしょうか。
キーガン それは、恐れです。この恐れこそが変革を阻む免疫機能(Immunity)なのです。例えば「権限移譲をしたいし、そのテクニックもわかっている。でもできない」という人には、何らかの恐れが根底にあります。例えば権限移譲した部下が失敗したら自分の責任になってしまう、あるいは部下が成果を出して自分が必要とされなくなったら困る――。
ITCのアプローチは、まずこの恐れを生む前提となる固定観念を洗い出します。そのうえで、本当にその固定観念が妥当なのか、安全な環境で実験し、検証してみます。実験の結果、その固定観念が実は妥当ではないとわかると、人は恐れから解き放たれるのです。