今求められる「自己を変革し続ける」経営者 社長の「知性」レベルが組織の将来を決める

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変化が激しく不確実性や複雑性が増し、将来の予測が困難な現在の経営環境は、過去の経験と実績だけでは通用しない世界である。従来型の経営が限界を迎えつつある今、企業のトップにはどのようなリーダーシップが求められるのだろうか。次期社長の後継計画策定・実行支援や経営者の自己変革支援を数多く手がけるエゴンゼンダーの東京オフィス代表、丸山泰史氏と、成人発達心理学の権威で自己変革手法ITC(Immunity To Change)の開発者、ハーバード大学教授のロバート・キーガン氏が語り合った。

今、求められている経営者とは

――日本企業の社長後継者や次世代のリーダー育成には、どのような課題がありますか。

丸山 泰史
エゴンゼンダー
東京オフィス代表
グローバルエグゼクティブコミッティメンバー

丸山 次期社長の選定方法については声高に議論されるようになりました。しかし、その内容は社長後継計画の策定手続き論に偏っており、「今、どのような経営者が求められているのか」、「どうすれば、求められる経営者が育つのか」という議論は十分になされていません。日本企業では内部昇格が多く、社内で経営者候補となる人材をいかに見いだし育成していくかが重要であるにもかかわらず、です。

エゴンゼンダーでは、祖業であるエグゼクティブサーチに加え、企業統治改革や社長後継計画策定の支援をはじめ、後継候補者の能力や資質の評価、その後の自己変革支援まで包括的なアドバイザリーを長きにわたり提供しています。我々が世界を代表する数多くの経営者と接してきた中で、「今、求められる経営者とは」という問いに対して導き出した一つの答えは、「自己を変革し続ける経営者」です。

エゴンゼンダーが世界主要11カ国のCEO約400名を対象に調査を実施したところ、日本を含め世界の経営者の約8割が自己変革と組織変革の必要性を認識していることがわかっています。

これだけ多くの経営者が自己変革の必要性を認識せざるをえないほど、経営者が直面している環境は厳しくなっているのです。また、日本の経営者の7割以上が、経営チームの育成は想定していたよりも難しいと回答しており、厳しい環境にチームで対応しようにも、信頼できる経営幹部が育っていない現実が浮かび上がっています。つまり、今の日本の経営者にとって、自分が変わり続けることに加えて、チームや組織をも変える術を持つことが、とても重要なのです。

ロバート・キーガン
ハーバード大学教育学大学院教授
(成人学習・職業発達論)

キーガン 以前は、人間の知性は大人になると、発達が止まると考えられていました。しかし、実際には大人になってからも成長できます。成人期には3つの発達段階があります。

1つ目は「環境順応型知性」です。これは、周囲からどのように見られ、どんな役割を期待されるかによって自己が形成される段階です。しかし現在のように複雑で予測不能な環境に対応するには、この段階では十分に対応できず、次の段階の「自己主導型知性」が必要になります。これは、周囲の環境を客観的に見ることにより自分自身の価値基準を確立し、それに基づいて周囲の期待を判断し選択できる段階で、革新的な判断の仕方をする際に求められる知性です。

しかし、個人の価値基準には限界があり、その限界に達すると、最後の段階である「自己変容型知性」が必要となってきます。これは、自分自身の価値基準を客観的に捉えてその限界を検討できる段階で、特定の価値基準の正しさに執着しません。これにより多様性や柔軟性が生まれ、組織とともに成長・変革できるのです。

自己変革を続けるための方法論

丸山 エゴンゼンダーでは、厳格な評価プロセスを通して経営陣の資質や個性を見極めたうえで、個々に最適な自己変革支援も提供しています。数ある手法の中でも、日本の経営者にとくに大きな効果をあげているのが、キーガン教授の開発したITC(Immunity To Change)です。ITCとは、一言でいえば、「無意識に抱える固定観念を言語化し、取り払うことで、根本から行動を変えるアプローチ」です。繰り返し用いることで、内面に深く働きかけ、知性の発達をも促すことができる強力な手法です。

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