インバウンド増加中も「旅館」人気が鈍い理由 地方の「コト消費」を望む訪日客の心理とは
こうした動向について、宮嶋氏は訪日リピーターの増加と「コト消費」志向が背景にあると指摘する。「コト消費」とは、「モノ」を購入するのではなく、体験やアクティビティーなどによる消費を意味する。訪日リピーター数は年々増加しており、17年には過去最大の1761万人と推計される(国土交通省 観光庁 平成29年訪日外国人消費動向調査より)。
「リピーターになれば、必然的に行きたい場所は定番の観光地から今まで行ったことのない場所、つまり地方へと広がっていく。そしてこうしたリピーターがSNSで投稿することが宣伝となって、さらに新たな訪日客を呼ぶ。このような好循環が起こっているのです」(宮嶋氏)
同白書によれば、訪日客一般の地方部訪問率は54.3%だが、「スキー・スノーボード」をした人の地方訪問率は87.4%、同じく「温泉入浴」(75.0%)、「旅館に宿泊」(70.6%)だ。これらの「コト消費」は地方に行かないとできないものが多いが、逆の見方をすれば、日本独自の「コト消費」が訪日客を地方へ導いていることがわかる。
チャンスを逃す旅館の問題点
しかし、訪日客による「旅館」の利用率は全体の伸びに比べて鈍い。「観光や宿泊業を取り巻く現状及び課題等について」(平成31年国土交通省 観光庁)によると、訪日客のうち旅館への宿泊割合は1割程度にとどまるという。
旅館は「おもてなし」「和食」「温泉」など日本ならではの体験ができ、高いポテンシャルを持つはずだが、現実的には旅館特有の問題点がある。
「とくに地方旅館では、インバウンド対応が遅れていることが考えられます。1つは言語の問題です。例えば、予約サイトや公式サイトに日本語しかない、外国語が話せるスタッフがいない、などの課題があります。クレジットカードで支払いができるのか、部屋にWi-Fiがあるのかなどについても不安があるために訪日客は敬遠してしまうのです」(宮嶋氏)
同資料によると、「豪華で快適な高級ホテル(西洋式)」では宿泊希望と実際のギャップが皆無であるのに対し、「日本旅館」については70%が宿泊を希望しているにもかかわらず、実際に宿泊したのは55%なのだ。