企業が成長し続ける、経営の本質 M&Aによる事業承継と成長戦略
特別講演 福岡
挑戦に終わりはない!
新商品開発、強い組織風土創り、買収・再建、
後継者育成の視点からひも解く
アイリスオーヤマが成長し続ける理由
アイリスオーヤマ、大山健太郎氏は、時代に対応して事業モデルを変遷させてきた同社の歴史を振り返った。19歳で東大阪のプラスチック加工の町工場を継ぎ、20代で、ガラスに代わる真珠養殖用浮き球、木箱に代わる育苗箱など「アイデアと技術を生かしたプロダクトアウト」のプラスチック製品をヒットさせた。だが、オイルショック需要のリバウンドで苦境に陥り「マーケットイン」経営を目指し、メインマーケットに近い宮城の大河原工場を残して東大阪工場を閉鎖。東北に拠点を移した。
そこでたどり着いたのが「自身が代弁者になり、生活者が気づいていない需要を掘り起こすユーザーイン」の発想だった。育苗箱の技術を生かしたプランターなどの園芸用品、部屋の中で飼うためのペット用品といった、新たな商品を開発。ホームセンターに供給するメーカーベンダーとして新市場を創造した。さらに、原料メーカーと一緒に開発した中身が見えるクリア収納ケースを大ヒットさせ、海外にも展開してグローバル企業に飛躍した。東日本大震災後は、省エネという日本の課題を解決するLED照明事業を拡大。徹底した内製化でコストを抑えて低価格を実現した。その後も、低温精米の米、布団乾燥機など家電に進出。「会社が2代、3代と存続するためには、いかなる時代環境でも利益を出せる仕組みが必要。仕組みには生活者と直接つながるユーザーインがカギ」と語った。
特別講演 札幌
流通の諸行無常
北海道と青森、岩手両県で食品スーパーを展開するアークスの横山清氏は「諸行無常、変化のないものはない。特に流通業界は激しく動いている」と業界の状況を語った。横山氏は61年に商社から出向する形で、北海道の旧ダイマルスーパー(現アークス)に入社。85年に社長に就任し、数多くのM&Aを繰り返しながら年商5200億円規模の企業に成長させてきた。
M&Aは「単純な足し算ではない。気持ちが一致した相手と手を組む『マインド・アンド・アグリーメント』が大事」という考えで推進。M&A後は、アークスは持ち株会社の立場にとどまり、各グループ会社の経営陣は業績に責任を負うことを前提に、自由な経営を認め、顧客との距離の短い中規模のグループ会社が並ぶことで強みを発揮する「八ヶ岳連峰経営」を掲げる。これまで生き残ってきた原動力に「危機感」を挙げ、「獲れたイワシは、ナマズのいる船内のいけすに入れておくと、緊張から、生きたまま漁港に水揚げできる」という伝説を引いた。今後については、過去、消費増税のたびに流通業界再編が進んだ歴史を振り返って「第3次流通大再編が起きるのではないか」と予測。その備えとして、東日本エリアに強いアークスと、中日本のバローホールディングス、西日本のリテールパートナーズが18年末に提携したことを紹介し、「アークスで年商1兆円、3社で3兆円の大夢に向けて、経営資源と叡智を集めたい」と語った。
課題解決講演
会社を発展させるM&A活用と事例紹介
18年の日本企業のM&A件数は過去最高を記録した。M&Aを仲介するストライクの荒井邦彦氏は、金融緩和で資金調達環境は良好だが、国内市場の縮小で設備投資を手控える企業が、事業承継問題で岐路に立つ優良中小企業の買収に成長機会を求めるという構図を示した。実際に成長企業はM&Aをうまく活用している。地質調査などを手がける年商8億円の会社は、14年前に名古屋地区進出のため、買収候補の同業者の紹介をストライクに依頼した。その時は条件に合致する相手はなかったが、将来の事業領域と検討していた測量会社を紹介され、買収。15年間に計5社を傘下に収めることで、年商約60億円の東証1部上場建設コンサル会社に成長した。「寡占化されていない業種であれば、M&Aが大きな成長につながる」と語る荒井氏は「希望条件が狭すぎると相手は見つからない。1度で満足せず、買収を続けることで戦略レベルになる」と指摘した。
大手外食チェーンが北海道の介護サービス会社を買収した案件では、大手トップ自らの訪問が成功につながったと解説。「良い会社ほど買い手を選ぶので、譲受側の経営者の姿勢が大事」と強調した。M&Aでは「小さな会社の買収から始めて、大きく育てることを心がけ、屋台骨を揺るがすような過大なリスクは避けるべき」と注意を促す一方で、「経営者は、成長機会を逃してしまう『買収しないリスク』を考慮することも大事」と述べた。また、譲渡側の成長に貢献したM&Aの事例を紹介。「大手への会社譲渡も、成長のための選択肢の一つ」と、M&Aされる側の可能性についても言及した。