離婚に「2カ月の熟考」が必要なスイスの事情 裁判所に申請が必要、10万円以上の負担も

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教師によると、別居以来、学校での子どもの様子は明らかに変わったという。だが、子どもは専門家によるカウンセリングを受けることで落ち着き、いまではこう言う。「仲が悪い2人は見たくない。別々に住んでいるほうがいい」。

Kさんはフルタイムで働いているが、弁護士費用、自身のカウンセリング費用、夫が残って住む賃貸物件の一部料金負担と金銭的な負担が重なる。もともと細身だったKさんは心労も重なり4kgも痩せた。それでも「離婚できたら、また引っ越したい」と笑顔を絶やさない。

協議離婚は2カ月、訴訟による離婚は2年必要

日本では、離婚届を役所に出す協議離婚が離婚全体の90%を占めるが、スイスでも双方が合意した離婚は多く、同様に離婚全体の90%だという。ただし、スイスでは合意していても即離婚成立ではなく、裁判所に申請して出向かなくてはならない(有料で、住む地域によって違いおよそ11~33万円かかる)。

裁判所では、離婚したい理由(詳しい家庭内事情)を説明する必要はなく、熟慮した上での決断であることのみを伝えればいい。子どもがいれば親権、養育費、また財産分与などの取り決めについても提示する。この決断が、夫や妻からの脅迫などによるものではないと認められれば「2カ月間の熟考期間」に入る。この2カ月は必須のもので、冷静になってもう少し考えてみてくださいという働きかけだ。両者の気持ちが変わらなければ、このあと「離婚します」という文書を再び提出し、離婚が成立する。

さて、双方が合意していない場合、日本では離婚調停(話し合い)になるが、スイスでも中立的な立場の専門家を交える話し合いをして裁判を避けることはできる。どうしても折り合いがつかなければ、訴訟による離婚手続き(裁判)をふむことになる。

ただし、それには「最低2年別居した」という条件が必要になる。特別な理由がない限り、この条件なしにはスイスで離婚訴訟を起こすことはできない。2年間別々に暮らせば夫婦関係は修復不可能と判断され、離婚が認められる。

Tさんはどうなるのだろうか。できるだけ短期間で離婚できればいいが、訴訟まで進むのだろうか。別居は始まったばかりだ。

岩澤里美(いわさわ さとみ)

スイス在住ジャーナリスト。上智大学で修士号取得(教育学)後、教育・心理系雑誌の編集に携わる。イギリスの大学院博士課程留学を経て2001年よりチューリヒ(ドイツ語圏)へ。共同通信の通信員として従事したのち、フリーランスで執筆を開始。スイスを中心にヨーロッパ各地での取材も続けている。得意分野は社会現象、ユニークな新ビジネス、文化で、執筆多数。数々のニュース系サイトほか、JAL国際線ファーストクラス機内誌『AGORA』、季刊『環境ビジネス』など雑誌にも寄稿。東京都認定のNPO 法人「在外ジャーナリスト協会(Global Press)」理事として、世界に住む日本人フリーランスジャーナリスト・ライターを支援している。(HP

「ニューズウィーク日本版」ウェブ編集部

世界のニュースを独自の切り口で伝える週刊誌『ニューズウィーク日本版』は毎週火曜日発売、そのオフィシャルサイトである「ニューズウィーク日本版サイト」は毎日、国際ニュースとビジネス・カルチャー情報を発信している。CCCメディアハウスが運営。

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