さらに開発期間が長期化することで、投資額もかさんでいった。末延は研究に関する投資がどれだけ回収できるのか、数字で説明できるよう財務諸表を勉強した。また共同開発するためにさまざまな会社と契約書を交わすこともあるため、契約書の読み方までも勉強した。なかなか進まない研究に、膨らむ投資――。
「苦しかったけれど、新しいことを身に付けるのはすごく楽しい。小学校で給食当番になって少しお姉さんやお兄さんになったような気分。自分ってすごいのではないか、そう思うと楽しかった」と末延は口にする。
「白斑事件」が起きてしまった
そんな中、ついに末延たちは「ニールワン」を溶かさない方法を発見した。糸口になったのは、研究企画部長の檜谷季宏がたまたまお昼のデザートに食べたチョコミントアイスだった。
「アイスクリームに入っているチョコチップのように溶けない形状にすればいい」。このひらめきが突破口へつながり、「リンクルショット」は完成へのゴールテープを切ろうとしていた。
だが、実はここから末延たちに最大の難関が立ちはだかることとなる。医薬部外品はPMDA(医薬品医療機器総合機構)の審査を経て厚生労働省の承認を得なければいけない。ところが「リンクルショット」は国内でも事例がなかったため、なかなか審査が進まなかった。
さらに2013年には追い打ちをかける事件が勃発。カネボウ化粧品の美白化粧品を使うと皮膚に白いまだら状のもようができる、「白斑事件」が起きたのだ。これでPMDAとの交渉もゼロベースに。末延はPMDAと会議があると聞けば、少しでも話しを聞いてもらおうと会議にかけつけた。
やりとりを粘り強く続けた結果、ついに2016年にリンクルショットはPMDAの審査を合格し厚生労働省の承認を得ることになる。ここに至るまで実に14年の月日が過ぎていた。

「リンクルショットを開発していたとき、鈴木弘樹上席顧問が『こんな商品が世の中に出たら絶対販売員も喜ぶよ』と話してくれた。
いざ商品を発売したときに、鈴木上席顧問は真っ赤なネクタイをつけてすごく嬉しそうな顔をしていた。それを見て、あぁトップに支えられていたんだなぁと思った」
無料会員登録はこちら
ログインはこちら