「デジタル化」グローバルで進める日産の本気 大企業の鈍重な開発体制を変えた手法とは?

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日産自動車株式会社
デジタルテクノロジーサービス本部デジタルテクノロジー部
保田啓氏

ハードをリプレイスするタイミングに合わせてシステムを改修する話もよく浮上した。しかし、これまで塩漬けしていた分をまとめて改修すれば、巨大なプロジェクトになってしまう。

「大きなプロジェクトは、予算取りが難しい。プロジェクトが先送りになると、ハードをリプレイスするタイミングが先に来てしまう。その結果、新しいハードに古いアプリケーションが乗って不具合が発生したこともありました」

プロジェクトが先送りになりがちなだけではない。いざ走り出しても、30%のプロジェクトは遅延。また、60%のプロジェクトは完了までに1年以上の期間を要した。アジリティに欠ける開発に不満を抱いた事業部門が、NISSAN Digital部門を介さずSaaSを利用することもあった。こうした“シャドウIT”が社内に散在する状況は、セキュリティ的にも決して喜ばしいものではなかった。

脱ウォーターフォールにソフト・ハード両面から挑戦

これまでのウォーターフォール型では動きが鈍くなり、時流に乗ったシステム開発ができない――。同社のNISSAN Digital部門内でそうした危機感が醸成されてきたのは2016年頃だった。それを受けて、小単位で継続的に繰り返し開発を行うアジャイル開発へのシフトがトップダウンで決まった。

とはいえ、決めればガラリと変わるというほど現場は甘くない。アジャイル開発を浸透させるためには、ソフト・ハード両面での施策が必要だった。

ソフト面では、NISSAN Digitalメンバー24人に、アジャイル開発を行うチームをファシリテートする「認定スクラムマスター」の資格を取得させた。一方、ハード面では、CI/CD(Continuous Integration/Continuous Delivery)、つまりソフトウェア構築の中で手作業で行っていた過程(ビルドやテスト、デプロイ)を自動化し、短期間で開発サイクルを回すためのツールの導入を決めた。

「当初はオープンソース系のツールを使っていましたが、事業として行うのであれば有償でもいいから、きちんとサポートしてくれるところのほうが安心できます。また、バージョン管理しやすいかどうかも大事。それらを考慮して、アトラシアンのスイートを導入することにしました」

テストやデプロイの自動化で、リードタイムが大幅短縮

2017年4月、日産のNISSAN Digital部門はアトラシアンのスイートを、アトラシアンパートナーであるアークウェイ社を通して導入した。具体的には、プロジェクト管理ツール「Jira Software」、情報共有ツール「Confluence」、自動化 (CI/CD) ツール「Bamboo」、ソフトウェアの開発情報(Gitリポジトリ)管理ツール「Bitbucket」の4つだ。

ただ、たとえ優れたツールを導入しても、ユーザーに受け入れられなければ宝の持ち腐れになってしまう。では、保田氏はどうやってツールの浸透を図ったのか。大きな役割を果たしたのは社内の「ユーザー会」だった。

「興味を持って使ってくれたユーザーを集めて、活用事例を報告し合う会を定期的に開催しました。人数は約70人。最初はベンダーの常駐スタッフが多かったですが、徐々に輪が広がり、社員も広く参加してくれるようになりました」

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