ふるさと納税は本当に地方を肥やすか? 「佐賀・いちご農園」に見る地域活性の今
「当社はもともとBtoBビジネスを柱としており、消費者の声を聞ける機会はあまりありませんでした。しかし、ふるさと納税を始めてすぐ、寄付者の方から『美味しかった。また頼みたい』という手紙をいただいたのです。そうした声は何よりも従業員のモチベーションにつながるため、『さとふる』のレビューも全員に共有しています」
寄付者の声は、商品開発にも生かされている。
「小分け商品は、以前は扱っていませんでしたが、ふるさと納税の返礼品として出すにあたり『さとふる』の担当者の方から小分けにしたほうがいいと提案をいただき、作ってみたところランキング上位に。消費者のニーズをとらえるきっかけになりました」
返礼品の袋詰め作業を地域の障害者就労施設に依頼するなど、地域貢献を意識した取り組みを行っている同社。アルバイトの増員や印刷業者・配送業者への発注増加など、地域企業にも経済効果が波及している。
「現在、たらこの小分け商品も提供開始しました。美味しさと食べやすさを追求し、消費者の期待に応えていきたいですね」(藤瀬さん)
寄付先自治体の未来に関心を持つ人が増えている
こうした、ふるさと納税をきっかけに事業の幅を広げている事業者の例を広めることでさらに制度を浸透させるべく、さとふるは今年6月、返礼品事業者の思いやふるさと納税をきっかけとした地域活性化の様子を伝える地域情報サイト「ふるさとこづち」をオープンした。特にふるさと納税をきっかけとした地域や事業者の変化をつづる事例紹介記事が多く読まれているという。
前述のアンケートでも、ふるさと納税経験者の約8割が『寄付した自治体に寄付金の使い道を報告してほしい』と考えており、未経験者も含む回答者のうち、8割以上が『共感できる使途なら寄付したい』と回答。寄付した地域の変化に注目する人が増えているとみられ、今後はクラウドファンディング型のふるさと納税も増えていくと考えられる。
一方、寄付者が増えれば自治体の業務も増える。ワンストップ特例制度(※3)の処理は煩雑なうえ、自治体は短期間での対応を迫られる。そこでさとふるは、今年8月から同制度の自治体業務を一括代行するサービスを始めた。まずは北海道安平町から開始し、徐々に対応自治体を増やしていく想定だ。
認知を広める段階から、真の地域活性化について考えるフェーズへと熟しつつあるふるさと納税。返礼品の提供を機に飛躍を遂げる地域事業者は、今後ますます増えていくことだろう。
※1 出典:総務省 ふるさと納税ポータルサイト「平成30年度ふるさと納税に関する現況調査結果」
※2 「ふるさと納税の寄付金使途に関するアンケート調査」実施期間:2018年6月15日~ 2018年6月22日、手法:インターネット調査、対象:20代以上の男女計1,114人(ふるさと納税制度を活用して寄付をしたことがある人が957人、したことがない人が157人)
※3 ワンストップ特例制度とは年間の寄付先が5自治体以内の寄付者を対象に、寄付先の自治体に必要な書類を提出するだけで、翌年度分の住民税控除が受けられる制度。寄付を行った年の所得について確定申告の必要がなくなる。