
制度開始から10年経過。震災を契機に全国へ浸透
「ふるさと納税が始まって10年経ちますが、利用経験者は制度認知者のうち1割強程度。残りの8割以上に制度の良さが伝わっていないのは、非常に惜しいことだと感じています」と語るのは、「さとふる」取締役 兼 COO 地域協働事業推進部部長の青木大介氏。同社は、ふるさと納税サイト「さとふる」を運営している。
進学や就職などによりふるさとを離れた人々が、「恩返し」の意味を込めて出身地の自治体に納税できる制度を、との考えから2008年に制度化されたふるさと納税。15年には税額控除される寄付額が約2倍になるなど、いくつかの制度変更を経て現在に至っている。

大きく広まったきっかけの一つは、11年の東日本大震災だった。迅速に被災地に支援金を届ける寄付方法としてふるさと納税が話題となり、認知が高まった。今では、全国の自治体が寄付による財源確保のほか、地域のPR、地元産品のブランディングを目指しふるさと納税を活用している。
青木 大介
制度を支援する同社の思いについて、青木氏はこう語る。「制度により自治体に財源が生まれ、新しい取り組みや投資ができるようになったのは喜ばしいことです。しかし規模の小さな自治体では、返礼品の準備や送付、その地域の特色に合う特産品探しなどの業務に対応する人的リソースを割けないケースが多いのが現状です。
であれば、煩雑な手続きや返礼品の準備は私たちが担おうと考えました。自治体の方々には、寄付金をより良く活用し地域に役立てる業務に時間を費やしていただきたい。当社はふるさと納税サイトの運営だけではなく、ふるさと納税にかかわる自治体様の業務を一括代行することで地域の『継続的な発展』を支援する企業です。各自治体とともにその地域の魅力を掘り起こし、全国の寄付者にその地域のファンになって、応援し続けてもらえるよう願っています」
離れた土地の人と人がつながる温もり
「さとふる」では自治体に代わって返礼品事業者の開拓を行ったり、地域の事業者と返礼品開発も行っている。またサイト上には寄付先の自治体や返礼品とともに、生産者の声やその土地の魅力が多数掲載されている。つい豪華な返礼品に目が行きがちな寄付者も、生産者のメッセージを読み、地域の魅力を知れば、親近感を持たずにはいられないだろう。
返礼品を受け取ったり寄付先の地域を訪れて感じるのは、単なる「お得感」だけではない。その先にいる現地の人々の思いや熱意、温かさに触れることこそ、ふるさと納税制度の醍醐味と言えるだろう。実際、受け取った返礼品に感動して事業者に直接電話や手紙を寄せる人や、その特産品のファンになり定期的に購入する人も出ているという。
「ふるさと納税をきっかけに、名前も知らなかったような地域の特産品を実際に手に取ったり、味わったりすることで、新しい地域の魅力を発見する人がたくさんいます。最近は特産品だけでなく、現地に訪れてイベントに参加するなど、体験型の返礼品も増えてきました。現地の人々と寄付者の交流が増えていることを、本当にうれしく感じています」(青木氏)
寄付者の喜びの声がまた、生産者や自治体職員の励みにもなっているという。「特に、普段消費者に会うことの少ない事業者様からは、こうした反響がやりがいにつながるという声も聞いています。さらに、返礼品事業によって得られた収益を元に、新しい商品開発や事業拡大に挑戦する事例も出ています」と青木氏は語る。
同社の特長として、自治体職員はもとより、返礼品事業者とのコミュニケーションを非常に重視している点が挙げられる。「さとふるはサイト運営会社と思われている方も多いようですが、社員がなるべく多く各担当地域を訪れ、地域の方々と接点を持てるよう努力しています」(青木氏)。「さとふる」は、寄付者と自治体や生産者をつなぐ、いわば架け橋となっているのだ。
根付きつつある寄付文化、震災時はすぐに支援金を
青木氏はこれまでの手応えについて、「日本では、なかなか寄付文化が根付かないと言われていました。しかし、東日本大震災や熊本地震などをきっかけに、誰かが困っている状況に手を差し伸べたいという機運が生まれました。寄付文化も、そこからだいぶ浸透してきたように思います」と語る。
16年の熊本地震の際には「さとふる」内に即時に緊急支援サイトを立ち上げ、被災自治体に寄付できる制度を整えたところ、10日程度で1億5000万円以上が集まったという。青木氏も「ふるさと納税を通じて、スピーディに寄付金を届けられました。被災自治体からは寄付者の方々へ感謝のお声をいただきました」と振り返る。
「さとふるクラウドファンディング」の画面
そうした各地域が抱える特定の課題解決を支援しようと、今年5月から始まったのが「さとふるクラウドファンディング」だ。目的と用途を最初から明示し、ふるさと納税制度を利用し寄付を募っている。たとえば、絶滅の危機にある野生動物を保護する活動への寄付が募られている。「本当の寄付文化」が、日本にも根付き始めていることの証明だ。
「今後も、ふるさと納税が各地域でさらに有益な活用をされていくよう尽力します。また、寄付金の使途や地域の方々の生の声を、寄付者側にも届けて行きたいと思っています」(青木氏)。初心者も経験者も、ふるさと納税を通じて、ほかの地域とつながる温もりを感じてほしい。