─ 結びに ─
困難なこれからの10年、今がまさに岐路
大崎明子(東洋経済新報社 編集局 ニュース編集部 部長)
新たな成長を実現するために
安倍政権は「デフレ脱却」「円高の是正」を掲げているが、円安は、実はアベノミクスではなく、2012年に欧州債務危機による金融市場の混乱が落ち着いたことと、日本の貿易収支が黒字から赤字に構造変化したことでもたらされている。今年になってよく指摘されることだが、賃金が上昇しないまま、円安による輸入インフレが進めば、家計を圧迫し、成長には逆効果を及ぼすおそれがある。
先進国は1980年代に戦後復興から続いた高度成長に一応の終止符が打たれたと見られる。その後は、各国とも、金融政策や財政政策で将来の利益の先食いをしてきたといえる。しかし、前述のようにそれは本質的な解決策とならず、副作用の問題も抱えている。
さらに、リーマンショック後の世界経済を牽引してきた中国などの新興国も中所得国のわなに陥り、舵取りが難しい時期にさしかかっている。再びグローバルな金融危機を迎えるリスクもある。どの国も経済に問題を抱え、国民に対しては、外へ仮想敵を見つけることで、ガス抜きをしがちでもある。しかし、これが人や企業にとってはまったくプラスにならないことは、昨年の竹島、尖閣の騒動に見られるとおりだ。
政府は2020年度以降の日本経済について、2.3%の成長、名目で3.5%の成長を描いているが、現在0.5%とされている潜在成長率を2%にまで引き上げるには、相当な体質の強化が必要である。しかし、国家主導の成長戦略、産業構造の転換には規制緩和を通じた既得権益の削減、利害調整が必要なので、なかなか進まない。国家が成長産業を決めることが果たして有効なのかも疑問がある。
本質的には民間企業の活力、イノベーションが成長の原動力となる。日本の場合、最大の問題でかつ解決すべき課題は産業構造の転換に取り組むことだ。アジアの新興諸国との価格競争にさらされ、賃金・コストの削減で収益確保をするというパターンから脱却するには、安定成長・高齢化時代に合う商品やサービスを提供することだ。人口減による内需の縮小が言われている。しかし、都市や交通などのインフラから家庭内に至るまで、高齢化に対応した高付加価値なサービスが不足していることは明らかだ。
もはや輸出に頼る時代ではなく、海外の需要を取り込むには、現地展開をしなければならないが、それも現地の経済や社会のリスクを見極めながら進める必要があり、一定の限界がある。
ここから先の数年はナローパスをどう切り抜けるか、政府が既得権益層に迎合的な政策しか取れないのならば、人も企業も国に頼らない独自の選択と工夫が求められる。