─ 結びに ─
困難なこれからの10年、今がまさに岐路
大崎明子(東洋経済新報社 編集局 ニュース編集部 部長)
逼迫する日本の財政
リーマンショックから5年が経過した。
日本経済については、昨年の政権交代以降、アベノミクスの掛け声の下、株価の上昇、円安の進展などから、やや明るいムードが広がっている。2013年度の実質GDP(国内総生産)成長率は年2.6%程度と見込まれ、内閣府が「景気は緩やかに回復しつつある」「物価はデフレ状況ではなくなりつつある」との基調判断を示している。
株高はリーマンショック以降の米FRB(連邦準備制度理事会)の度重なる量的緩和に、日本銀行の黒田東彦新総裁による質的量的緩和が重なって、持ち上げられてきた面が大きい。また、足元の好況は2012年度補正予算13兆円強の大盤振る舞いと、消費税導入前の駆け込み消費でかさ上げされた結果である。いわゆるアベノミクスの第一の矢(大胆な金融政策)、第二の矢(機動的な財政政策)だ。
しかし、これらの政策には副作用がある。基本的に、マクロ経済政策は一時しのぎにすぎない。財政はカンフル、金融はモルヒネに例えられる。いずれも将来の成長を先食いしている。
日本の財政は、政府債務残高が2013年度末で名目GDP比190.6%に達し、先進国中最も厳しいことは周知のとおり。今年度の基礎的財政収支の赤字は同7.0%に達する。これを持続可能な姿にしていくことには増税のみならず支出の削減も必要だ。
安倍首相は10月1日にようやく消費増税を決断。2014年4月から消費税率は5%から8%に引き上げられるが、続けて2015年に税率を10%に引き上げることができたとしても、政府試算においても2020年度に基礎的財政収支の赤字解消という目標は達成できない。膨張し続ける社会保障費を抑えることが必要になってくる。
ジェームズ・M・ブキャナンが指摘したように、民主主義の下では財政は膨張が避けられない。政権は国民の歓心を買う財政出動を好み、嫌がる再建策を先送りにしがちだ。今般、3%分の消費税率引き上げの痛みを緩和するために、2%分に相当する5兆円の経済対策を打つが、こうしたことの繰り返しが、財政を膨張させてきた。社会保障費の削減は既得権益の調整となるので、非常に困難だ。ただ、改革は待ったなしだ。団塊の世代が後期高齢者になる2022年以降、医療費が急膨張することが予想される。