毎日、当たり前のように着ている「スーツ」だが、きっちり着こなすのは案外難しい。自分ではそれなりに着こなしているつもりでも、実は周りに違和感をもたらしていることも少なくない。そこで、老舗百貨店「松屋銀座」でバイヤーを務める粟竹将氏に、ビジネスパーソンがやってしまいがちなスーツの「ダサい着こなし」、「NG例」を解説してもらった。
体に合っていないスーツは見てわかる
まず、最初に挙がったのが、ジャケットとパンツのどちらか一方が体に合っていないケースだ。これは本当に多いのだという。
既製品のスーツは日本人の最大公約数に合わせてパターンが作られているため、平均的なサイズの人であれば既製品でもフィットするはず……、なのだが、上半身と下半身が同じように平均的な人はなかなかいない、というのが現実だ。
既製品のスーツは上下が同じサイズで売られるために、上半身だけガッチリしていたり、逆に下半身だけたくましかったりする人は、どこかが合わなくなってしまうのだ。部活動でスポーツに熱中していた、など、部分的に筋肉が付いてしまった方などは要注意だ。
「スーツの着こなしは、”体に合っていること”が何より大切です。体に合ってさえいれば、絶対的にスタイルがよく見えます。逆に体に合っていないと、どんなにいいスーツであってもどこかしらバランスの悪さを感じさせてしまいます」
粟竹氏はそう解説する。
もう少し細かく見ると、ジャケット一着の中でもアンバランスさが生じることもあるという。たとえば、ガッチリした肩に合わせたサイズを選ぶと、胸や腹の部分に余裕ができすぎてしまう。あるいはメタボ気味のお腹に合わせると、胸や肩がゆるくなってしまう、ということだ。そして、体にフィットしていない部分が、ダサい印象を醸しだしてしまう。
ここまで読んで、ご自身のスーツが体に合っているのか不安になった読者諸兄もいるだろう。簡単なサイズチェック方法を解説するので、まずはご自身のスーツをご用意いただきたい。
「ジャケットのサイジングの指標となるのが、立ち上がって腕を両側へ下ろした時に、正面から見て脇腹にすき間があるかどうかです。まずは、ジャケットを着て、ボタンを一つ留めてください。この状態でジャケットが体にフィットしている場合は”くびれ”が生まれ、腕と脇腹の間から向こう側が見えます。逆にすき間がなく向こう側が見えない場合はオーバーサイズと言えます」(粟竹氏)
パンツの場合も、丈が長すぎてダボついていると途端にだらしない印象になる。パンツ丈の長さは、ハーフクッション(裾が靴の甲に少し触れるくらい)かノークッション(裾が靴の甲にギリギリ触れないくらい)を目指すのがいいと言う。
また、スーツには特有の”セオリー”がある。これを外した着こなしも、違和感を生む。
「袖の長さに関しては、長すぎて下のシャツが見えないのも、逆に短すぎて下のシャツが見えすぎるのもNGです。シャツが1~1.5センチほど見えている長さが理想となります。同様に、襟元を後ろから見た時にもシャツが少し見えているのが正しい着こなしです。
ジャケットの着丈も同じく、長すぎても短すぎても全体のバランスがおかしくなります。理想はお尻が完全に隠れてしまわずに、少しだけ見えるくらいの長さです。
ジャケットのウエストに関しては、ベント(ジャケットの裾の切れ目)がサイジングの一つの指標となります。立った時にベントが開いている場合は身幅が細すぎと言え、ベントがちょうど閉まるくらいが理想のフィット感です」(粟竹氏)
オーダーなら”体型のギャップ”が埋まる
では、こうした「ダサい着こなし」から抜け出すにはどうすればいいか。その解消法の一つが「オーダースーツ」だ。
まず、オーダースーツは大別すると「パターンオーダー」「イージーオーダー」「フルオーダー」の3種類に分けられる。パターンオーダーは、既製品をベースに身幅、袖丈、着丈などの寸法を調整できる簡略的なオーダースーツだ。イージーオーダーは、数ある型紙パターンの中から体型に一番近いものをセレクトし、各部の長さを調整し、さらには体型の癖に合わせて補正を入れられる。そしてフルオーダーは文字通り、自分の体型サイズに合わせたスーツを一から作る。
いずれにも共通するのが、ジャケットとパンツのサイズを上下で変えられること。実はサイジングの面ではこれが非常に大きい。冒頭で解説したように、多くのビジネスパーソンは上半身と下半身のサイズ感にギャップがあるからだ。
また前述の通りイージーオーダーでは、体型の癖に合わせた補正を入れられる。体型の癖とは、たとえばいかり肩、なで肩、前肩、はと胸、猫背などだ。
「たとえば肩が少し前に出た前肩であれば、それに合わせて肩の縫製を若干前に出すなどの補正を入れます。わずか1~2ミリの調整であっても、それにより余計なシワが解消されたりするんです。お店やブランドによりますが、最近はパターンオーダーであってもそうした体型補正ができることもあります」
さらに、普段の仕事の内容や、スーツのポケットにものを入れるかどうかも、採寸の時に伝えたほうがいいという。
「座ってデスクワークがメインの方であれば、ウエストは少しゆったりめに作ったほうがいいですね。立っている時より座った時のほうがおなか回りはふくらみますから。また、スーツの内ポケットに手帳や財布を入れる方も採寸時に要注意です。本当はスーツには何も入れていただきたくないのですが、どうしても入れたいのであれば、ジャケットを少しゆったりめにつくることをオススメします」
このように自分に合わせた微調整がオーダーすることの醍醐味でもある。
太り気味の人こそオーダースーツが生きる
実は、太り気味の人にこそオーダースーツを試してほしい、と粟竹氏は力説する。
「ぽっちゃりした方は体型を隠そうとゆったりしたスーツを選びがちですが、実はこれは逆効果で、より太って見えてしまいます。オススメしたいのは、肩回りをしっかりめに、逆にお腹回りは絞り気味にすることです。そうすることで、太り気味の方でもスーツでグッとスタイリッシュになりますし、Tシャツ一枚よりも断然やせて見えます。スーツというのは、女性の補整下着に近い効果があると考えてもらっていいと思います」
松屋銀座では、9月12日から10月2日にかけて「秋の紳士服カスタマイズフェア」を開催する。期間中にスーツオーダーを行うと、「限定生地やパーツを使用可能」「有料加工が無料に」「ノベルティグッズを贈呈」といったさまざまな特典を受けられる。オーダースーツの第一歩を踏み出すにはいい機会だろう。
「近年はイージーオーダーやカスタムオーダーを行うお店が増え、オーダースーツに対するハードルがかなり下がっています。最近は若年層の方もよくオーダーされています」(粟竹氏)
スーツを「作業着」ととらえて、時間もおカネもかけない、という人も多いかもしれないが、それではダサい印象から脱却できない。スーツとは作業着であると同時に「勝負服」でもある。ビジネスを前進させるために第一印象を改善したいのであれば、まずは自分のスーツのチェックから始めるといいかもしれない。

