キーワードは、考える現場とつなぐチカラ 日本企業の成長を促すCSVへのチャレンジ

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考える現場がイノベーションを引き起こす

―CSVを実践していくためにも、現場の知恵が重要だと、指摘されています。

名和 前述したように、社会的な課題を解決するアイデアをフィジカルな世界で実現しようとする時、さまざまな制約や困難に直面します。私は、「考える現場」と名付けているのですが、そうした壁を乗り越えブレークスルーしていくためには現場の知恵や工夫が不可欠です。どれだけ、現場の人間が多くのことに気づけるか、その感度が問われているとも言えるでしょう。とりわけ、現場の知恵は本社のオフィスではなく、顧客やモノに接している「縁」から生まれることが少なくありません。ですから、そうした最前線の現場の感度を上げ、イノベーションを起こしていくためにも、ESGやCSVの考え方を浸透させることに意味があります。たとえば環境負荷を考える際にも、ゼロエミッションを超えて、環境にプラスにすることはできないか、など、現場で働く多くの人々が当事者意識を強めることで考える現場がより強くなっていくのです。

―現場の意識と感度を向上させるためにも、経営としてESGへ積極的に取り組むことが欠かせません。そうした文脈からも、オフィスなどで使った使用済み用紙をオフィス内で再生紙に製紙できるエプソンの「PaperLab(ペーパーラボ)」は、現場に多くのメッセージを発信しているとも言えますね。

名和 環境負荷の低減や重要な情報が印刷された紙が外部に出ることで情報が漏えいするリスクを防ぎながら、新しいアイデアが生まれるもとにもなりうる再生紙をつくる。マイナスをゼロに、そしてプラスにするフィジカルな設備が、現場の考えるチカラや感度を刺激するのではないでしょうか。ペーパーラボそのものからエプソンならではのイノベーションを感じますし、課題の解決をポジティブなループにつなげていくためのヒントを、ペーパーラボは与え続けているとも言えるでしょう。

―まさに、マイナスからゼロへ、ゼロからプラスにというポジティブな現場の意識が醸成されそうです。

名和 現場の意識を高め、現場で生まれた知恵や工夫を仕組みに落とし込んでいくのが経営の役割だと言えるでしょう。現場にはいろいろな情報があります。しかし、何も考えない現場だと、そうした貴重な情報を見過ごしてしまうかもしれません。社会課題を解決していこうという共通認識が現場にあれば、組織として貴重な情報に気づく力を高めていくことができます。それこそが、日本企業の競争力を高めていくことにもつながっていくのでしょう。