キーワードは、考える現場とつなぐチカラ 日本企業の成長を促すCSVへのチャレンジ

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斬新な空想をフィジカルな世界でカタチにしていく

―どういうことでしょうか。

名和 つい最近もシリコンバレーを訪れたのですが、現地では日本企業が持っているつなぐチカラがたいへん高く評価されていました。バーチャルなアイデアをフィジカルな世界でカタチにしていくトランスレーターとして、日本企業への期待が高まっているのです。たとえば、スタートアップ企業の多くは、ひねり出したアイデアを基にモックアップをつくってプロトタイプまでは仕上げることができても、そこから型枠をつくって製品化するまでの匠の技を持ち合わせてはいません。フィジカルな世界は、いわば制約の塊のような世界です。斬新な空想を具体的なカタチに落として量産化するというプロセスは、日本企業が得意とするところではないでしょうか。世界の中では希少価値とも言ってよいフィジカルな世界での強さが、社会的な課題を解決する過程でも、重要な役割を果たすはずです。

―中堅・中小企業はいかがでしょうか。

名和 日本の産業構造の大きな特徴の一つが、中堅・中小企業の層の厚さと多様さです。それぞれに、一芸に秀でている得意技があるからこそ、これまで継続してきたとも言えます。そうした強みを磨き続けることで、前述したような日本企業が大きな役割を果たす仕組みの中に入っていくことができるのです。ものづくりだけではなく、サービス業も例外ではありません。たとえば、社会的な課題を解決していくための介護の質、移動の質一つとっても、日本ならではの人間の機微をくすぐるようなおもてなしや思いやりは、ほかにはない体験価値をもたらします。ここでも、アイデアをフィジカルな世界で実現するための現場のチカラがあるのだと思います。もちろん、そこではエントリーチケットとしてのESGを意識した経営に背を向けることはできません。逆に、ESGを意識するからこそ、現場が鍛えられていくという側面もあるでしょう。

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