キーワードは、考える現場とつなぐチカラ 日本企業の成長を促すCSVへのチャレンジ

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ESG投資という潮流が、さまざまなメディアで取り上げられている。環境・社会・ガバナンスの頭文字をとったESGは、投資という視点だけではなく、さまざまなステークホルダーから共感を獲得するために欠かせない指標となっているのではないだろうか。いわば、ビジネスの世界にエントリーするための要件となっているとも言えるだろう。しかし、一方では、ESGへの取り組みを「成長のドライバーにしようという動きを実感している」と語るのは、一橋大学大学院の名和高司特任教授。「それは、本業の中で社会的な課題を解決し、社会価値と企業価値を創出するCSV(Creating Shared Value:共通価値の創造)と同じ方向に舵を切り始めているようにも見える」と続ける。
ESGへの取り組みを深めていくことが、CSVへのチャレンジにもつながる。そして、そこにこそ、日本企業が成長していく一つのカギがあると、名和氏は指摘する。

ESGをエントリーチケットから成長のドライバーに

―ESGを成長のドライバーにしようという機運が高まっていると指摘されています。

一橋大学大学院
国際企業戦略研究科特任教授
名和 高司

Profile
東京大学法学部卒。90年ハーバード・ビジネススクールにてMBA取得。三菱商事勤務後、マッキンゼーのディレクター、自動車・製造業分野におけるアジア地域ヘッド、ハイテク・通信分野における日本支社ヘッドを歴任。2010年6月より、一橋大学大学院国際企業戦略研究科教授。主な著作に『CSV経営戦略』『コンサルを超える問題解決と価値創造の全技法』『成長企業の法則』『学習優位の経営』『「失われた20年の勝ち組企業」100社の成功法則』など

名和 企業活動における環境負荷を減らす、あるいはワークライフバランスに配慮するなど社会に対してサポーティブな態度をとることは、企業として守らなくてはならないミニマムなルールとなっています。自由演技に進むための規定科目のようなとらえ方です。ESGを重視しない企業は、社会そのものにエントリーさえできない、と言っても過言ではないでしょう。しかし、現在、リスク管理といったとらえ方ではなく、そこから新しい利益が生まれる、価値を創出するための成長のドライバーとして前向きにとらえている動きが目立ちます。いわば、マイナスをゼロにするだけではなく、どうすればプラスにすることができるのか、と多くの企業が意識を変えています。たとえば、ワークライフバランスにしても、単に労働時間を短縮するのではなく、ワークの中にライフを、つまり自己実現や志を埋め込むことができれば、そこに働き甲斐が生まれ、ワークそのものの質が格段に向上する可能性があります。リスク対応ではなく、ポジティブループを生み出す方向にESGが大きく舵を切ったとも言えます。

―すると、ESGへの取り組みはCSVへと重なっていくようにも解釈できます。

名和 CSVという概念は、共通価値の創造と訳されていることからもわかるように、企業の事業活動、つまり本業の中で社会的な課題を解決するとともに経済価値も生み出すという考え方です。ESGを成長のドライバーとして位置づけようとする動きは、CSVと同じ方向に向かっているとも言えます。そして、CSVへのチャレンジにこそ、日本企業が大きく成長していくカギがあるとも考えています。

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