JR九州「或る列車」が乗客を虜にするワケ

九州北部豪雨から1年、地域の連帯も活力に

光岡~日田間での橋りょう流失は、通常ならば復旧に3年は要するほどの被害だったという。だが、JR九州の路線網において久大本線は同社観光列車のハシリでもある「ゆふいんの森」が走る重要路線。さらに、豊肥本線とともに九州を東西に結ぶ役割を持つ。熊本地震の影響で豊肥本線の復旧のメドがたたない中で、久大本線の復旧はまさに”急務”だったのだ。

「ですから、3年はかかると言いながらも社内では『絶対に1年でやるぞ』という思いは、社員のみんなが持っていました。そこには、やっぱりそれまで紡いできた地域の皆さまとの絆がありましたから」(内田さん)

2017年の九州北部豪雨で流された、久大本線の光岡~日田間(大分県)の花月川橋りょう。今では真新しい橋がかかっている

一方のうきは市では、昨年の九州北部豪雨の後、前年比で3割~5割ほど観光客が減少するという影響があった。今回の特別列車の運行は、久大本線の復旧のアピールとともに「うきは市が元気であることを知ってもらうチャンス」と藤田さんと中山さんは口をそろえる。

「うきは市のスイーツ店の数(人口比)は、日本トップレベルなんです。昔から小麦の産地ですし、おいしいフルーツもたくさん採れる。最近は移住してくる人も多くて白壁の町にも次々にスイーツ店ができていましてね。観光マップでも新しいお店を載せるのが追いつかないほどなんです。今回の特別運行は、うきはが元気であること、そして、町の人の温かさや自然と人が共に暮らしていることも、知ってもらいたいですね」(藤田さん)

※政令指定都市でトップとなる神戸市の洋菓子店が2.3店/1万人(2014年・日本政策投資銀行調べ)であるのに対し、うきは市は4.7店/1万人(2014年・うきは市調べ)とダントツの数字を誇る

ようやく通常の状態に戻っただけ

ただ、JR九州の内田さんが「あくまでもここからスタート、リスタートなんです」と言うとおり、今回の「或る列車」特別運行は、地域にとってもJRにとっても”はじまり”に過ぎない。藤田さんも言う。

「言ってみれば久大本線の復旧は今までどおり、通常の状態に戻っただけ。そして、”つながる”ことの意味の大きさをあらためて気づかせてくれました。だから、これからもうきは市だけじゃなくて被害の大きかった朝倉市や日田市をはじめ、ほかの地域の方々とももっとつながって、一緒になって盛り上げていきたいなと思います」

「或る列車」の乗車時にはレッドカーペットが敷かれ、乗務員が出迎える。洗練された内装に、極上のスイーツが列車の旅を演出する

豪雨被害を乗り越えて、列車の運転再開を待ち望んでいた地域の人たち、町の子どもたち。そして、その子どもたちのお見送りを受け止めて、旅の思い出を心にしまう乗客たち。列車は、地域と地域をつなぎ、人と人の心をつなぐ。新しい出会いや発見へ導き、新しい思い出を生み出す。乗客と町の人はもちろん、その列車がつないでいる町の人々同士を結びつけることもできる。

車窓をのんびり眺めながら普段の通勤電車とは少し違ったゆったりとした時間を過ごす。そして、地域の人々の営みや復興への力強い歩みを感じることもできる。なんとも、列車の旅とはいいものである。

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