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JR九州「或る列車」が乗客を虜にするワケ 九州北部豪雨から1年、地域の連帯も活力に

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  • JR九州 制作:東洋経済企画広告制作チーム

7月6〜8日にかけて発生した西日本豪雨(平成30年7月豪雨)は西日本の広い範囲に大きなつめ跡を残した。地域の人々は不安な日々を過ごしながら(7月22日現在)も、一歩一歩、日常を取り戻すための努力を続けている。自然災害とはつねに隣り合わせとも言えるわが国で、復興へ向かって少しずつ歩みを進めている地域が、福岡県にもある。

九州北部豪雨で橋が流失

7月22日、福岡県にある久大本線筑後吉井駅の周囲は、「或る列車」を楽しむ人たちの笑顔であふれていた。

「或る列車」とは、JR九州が2015年に導入した観光列車。正確には「JRKYUSHU SWEET TRAIN『或る列車』」と言い、その名のとおり車内では九州地方の食材を使った至極のスイーツが振る舞われる。金色に輝く車体はもちろんのこと、車内のしつらえから食器、グラスに至るまで、微に入り細に入り作り込まれたとにかく贅沢な列車なのだ。

それが、デビュー以来、初めて久大本線の筑後吉井駅にやってきた。

普段は静かなホームも、この日ばかりは大勢の人が詰めかけた(写真上)。出発時には全員で手を振ってお見送り(写真下)

乗車する36名は、その直前にうきは市の名物であるぶどう狩りやスイーツを堪能し、国の重要伝統的建造物群保存地区にも選定されている明治以来の「白壁の町並み」を散策。そして、「或る列車」が待つ筑後吉井駅へ。

駅へ着くと、気温35度を超える猛暑にもかかわらず、約500名の地元の人々の歓待が待っていた。キッズみこしによる歓迎の“わっしょい”で迎えられ、乗車する全員に桃や梨など地元で採れるフルーツが手渡された。そして、乗車直前にはキッズよさこいチームによる演舞が披露され、歓迎ムードが最高潮に。乗客たちは皆、満面の笑顔で「或る列車」に乗り込んでいった。

もちろん、見送る子どもたちも地元の人たちも一様に晴れやかな表情。この筑後吉井駅前の華やかなひととき。その裏には、多くの関係者の熱い思いが込められていた――。

今回の「平成30年7月豪雨」の被災県でもある福岡県だが、ちょうど1年前にも豪雨による甚大な被害を出している。2017年7月5日~6日にかけて、1時間あたり100ミリを超えるとてつもない大雨が九州北部を襲い、久大本線の光岡~日田間の花月川橋りょうが流された。その後、久大本線の一部区間は運行休止を余儀なくされ、復旧したのはおよそ1年後となる2018年7月14日だった。その全線復旧を記念した特別列車が、7月22日に運行した「或る列車」なのだ。

「去年の大雨から、久大本線が途切れてしまった。耳納連山をバックに赤や黄色の列車が走るというシーンは観光資源の一つですし、私たちの町にとってはシンボルのようなものでした。だから、それが動かないというのは、とても大きなことだと痛感していた1年でしたね」

こう話してくれたのは、うきは市観光協会の藤田豪太郎さん。

うきは市観光協会事務局長 藤田豪太郎氏

「何よりね、毎週火曜日のお昼12時23分には『ななつ星in九州』がやってきて、うきは駅に停まるんです。で、近くの保育園の子どもたちが『ななつ星』に手を振ったりしてお出迎えをして。それが町にとっての大切な日常だった。だけど、それがあの日から途切れてしまった。地域が沈んでしまう、そんな感じがしましたね」(藤田さん)

「ななつ星」とは、九州各地を巡る”クルーズトレイン”。車中泊をしながら各地の自然や食を楽しむ豪華寝台列車だ。

この「ななつ星」のお出迎えは、保育園が自主的に取り組んでいたこと。それが、いつしか地域全体に広がって「ななつ星」の乗客の間でも話題になり、当初はただ通過するだけだった「ななつ星」が、うきは駅に停車するようになったのだという。うきは市役所で観光促進に取り組む中山和成さんは「決して目的があってお出迎えをしてたわけじゃないんです」と笑う。

うきは市うきはブランド推進課ブランド戦略係 中山和成氏

「雨の日も風の日も、園児たちが欠かさずにずっとやってくれていました。それが少しずつ広がって町の人も参加するようになって。ウチの町の人たちは、みんなそういう人たちばかりなんです。今日、外で子どもたちに会いました? 知らない大人でも、子どもたちはすれ違うときにあいさつしてくれるんですよ。それに、乗客の皆さんは、通過するだけだとしても、うきはに来てくれたお客さま。景色を見て美味しいご飯を食べるのもいいけれど、やっぱりそういう地元の人との交流が思い出に残ってくれるとうれしいな、と(笑)」(中山さん)

こうしたうきは市の姿勢は、もちろんJR九州にも届いていた。今回の「或る列車」特別運行を担当したJR九州の内田鉄朗さんは言う。

「いくらすばらしい列車でも、それは入り口ですから。お客さまに本当に『楽しかった』と思っていただくためには、地域の方のおもてなしがいちばんなんです。私たちは列車を使ってお客さまを目的地までお送りすることはできますが、お客さまの心にずっと残るような思い出を作るのは、私たちだけではできません。それはひとえに地域の方々の力にかかっている。うきはをはじめ、久大本線の沿線の皆さまにはその点で、すごく力になっていただいていると本当にありがたく思っています」

JR九州鉄道事業本部営業部営業課 内田鉄朗氏

スイーツ店の数は日本トップレベル

JR九州とうきは市など久大本線沿線の自治体では月に1回ペースで定期的に情報・意見交換を行う連絡会を設けているという。さまざまな企画が双方から提案されるなど、沿線を盛り上げるための熱のこもった連絡会。内田さんは「今回の特別運行はこれまでの地域とのつながりの結晶」と話す。

確かに、鉄道会社だけ、地域だけでは「或る列車」の運行はかなわなかっただろう。そして、わずか1年での久大本線全線復旧も、だ。

光岡~日田間での橋りょう流失は、通常ならば復旧に3年は要するほどの被害だったという。だが、JR九州の路線網において久大本線は同社観光列車のハシリでもある「ゆふいんの森」が走る重要路線。さらに、豊肥本線とともに九州を東西に結ぶ役割を持つ。熊本地震の影響で豊肥本線の復旧のメドがたたない中で、久大本線の復旧はまさに”急務”だったのだ。

「ですから、3年はかかると言いながらも社内では『絶対に1年でやるぞ』という思いは、社員のみんなが持っていました。そこには、やっぱりそれまで紡いできた地域の皆さまとの絆がありましたから」(内田さん)

2017年の九州北部豪雨で流された、久大本線の光岡~日田間(大分県)の花月川橋りょう。今では真新しい橋がかかっている

一方のうきは市では、昨年の九州北部豪雨の後、前年比で3割~5割ほど観光客が減少するという影響があった。今回の特別列車の運行は、久大本線の復旧のアピールとともに「うきは市が元気であることを知ってもらうチャンス」と藤田さんと中山さんは口をそろえる。

「うきは市のスイーツ店の数(人口比)は、日本トップレベルなんです。昔から小麦の産地ですし、おいしいフルーツもたくさん採れる。最近は移住してくる人も多くて白壁の町にも次々にスイーツ店ができていましてね。観光マップでも新しいお店を載せるのが追いつかないほどなんです。今回の特別運行は、うきはが元気であること、そして、町の人の温かさや自然と人が共に暮らしていることも、知ってもらいたいですね」(藤田さん)

※政令指定都市でトップとなる神戸市の洋菓子店が2.3店/1万人(2014年・日本政策投資銀行調べ)であるのに対し、うきは市は4.7店/1万人(2014年・うきは市調べ)とダントツの数字を誇る

ようやく通常の状態に戻っただけ

ただ、JR九州の内田さんが「あくまでもここからスタート、リスタートなんです」と言うとおり、今回の「或る列車」特別運行は、地域にとってもJRにとっても”はじまり”に過ぎない。藤田さんも言う。

「言ってみれば久大本線の復旧は今までどおり、通常の状態に戻っただけ。そして、”つながる”ことの意味の大きさをあらためて気づかせてくれました。だから、これからもうきは市だけじゃなくて被害の大きかった朝倉市や日田市をはじめ、ほかの地域の方々とももっとつながって、一緒になって盛り上げていきたいなと思います」

「或る列車」の乗車時にはレッドカーペットが敷かれ、乗務員が出迎える。洗練された内装に、極上のスイーツが列車の旅を演出する

豪雨被害を乗り越えて、列車の運転再開を待ち望んでいた地域の人たち、町の子どもたち。そして、その子どもたちのお見送りを受け止めて、旅の思い出を心にしまう乗客たち。列車は、地域と地域をつなぎ、人と人の心をつなぐ。新しい出会いや発見へ導き、新しい思い出を生み出す。乗客と町の人はもちろん、その列車がつないでいる町の人々同士を結びつけることもできる。

車窓をのんびり眺めながら普段の通勤電車とは少し違ったゆったりとした時間を過ごす。そして、地域の人々の営みや復興への力強い歩みを感じることもできる。なんとも、列車の旅とはいいものである。