「中高生×スマホ×夏休み」から湧き出す不安 トラブルになる前に子どもとルールづくりを

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このみがメッセージのやり取りをしていたのは、見知らぬ男だった。男は20歳の大学生を名乗っているが、リアルに会ったことはない。もとはといえば、親とケンカした後や、学校で嫌なことがあったときなどにSNS上で愚痴をつぶやいていたところ、話しかけてきた男の一人だ。相手の軽妙で優しい言葉に乗せられたこのみは、まもなくダイレクトでメッセージをやり取りするようになった。

最初は日々の何げない会話だったが、学校での友人関係や恋愛の相談など、徐々に個人的なことも話すようになっていく。メッセージをやり取りするうちに、このみは見知らぬ男に好意を抱くようになっていた。しかも、男が送ってきた自撮り写真は、相当のイケメン。「景子ちゃんの彼氏よりも……」と、このみはまだ見ぬ男の想像を膨らませていった。

夏休みに入ってからはメッセージの頻度も増え、男に求められるまま、自撮り写真を送ることもあった。制服姿の写真を送ると、要求はエスカレートしていく。「太ももを見せて」「下着姿が見たい」という依頼にはさすがに応えていないが、求められることに悪い気はしていなかった。

簡単な架空請求詐欺でも子どもは引っかかる

夏休みが続くある日のこと。いつものようにこのみは家でSNSを楽しんでいた。友人からシェアされた動画配信サービスの「お試しキャンペーン情報」という言葉がふと目についた。今入会すれば、人気俳優の出ているドラマが見放題だという。何の疑いもなく「お試し入会」のボタンを押すと、その瞬間にスマホの画面がおどろおどろしいものに切り替わり、「会員登録完了」の文字が現れる。そして、そこに続く言葉にこのみは愕然とした。「会員登録費50,000円也」。

「どうしよう。5万円なんてない」

何の変哲もない架空請求詐欺だが、このみは怪しい情報に触れたときの対処法を持ち合わせていなかった。親にバレたら怒られるし、スマホも取り上げられるかもしれない。パニックに陥ったこのみが頼ったのは、もちろんあの男だ。5万円を請求されていると相談すると、親身になって話を聞いてくれ、ある提案をしてきた。

「裸の写真を送ってくれたら5万円出すよ」

このみにとって、目の前が開けるような話だった。好意を抱く人に写真を送るだけで請求の問題がなくなるのであれば、これ以上ない解決策だ。

それでも裸の写真となるとためらいもある。このみはメッセージアプリを開いた。

「景子ちゃん、ちょっと相談があるんだけど……」

このみとしては、「大丈夫だよ」と背中を押してほしかったのだが、返ってきたのは思いもよらない返事だった。

「だまされてるよ!」

景子からのメッセージは簡潔だった。会ったこともない人がそんな要求してくるのはおかしい、私の彼氏はそんなこと絶対に言わない、おカネもきっともらえないよ、と。

一方的な言い方に腹を立てたこのみはメッセージのやり取りを打ち切り、自分の部屋に閉じこもった。景子のメッセージをオフにすると、意を決して着ているシャツのボタンに手をかけた……。

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