住宅ストックを活かす時代の
大規模修繕が抱える問題とは

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1950年代~60年代に建設されたマンションや団地が一斉に老朽化の時期を迎えている。だが、建て替えはおろか大規模修繕の計画さえないマンションも少なくないのが実情だ。これからの大規模修繕はどうあるべきか。
住宅政策におけるマンションの位置づけなども見通す形で、東京都市大学の小林重敬教授に語っていただいた。

都市部での住宅政策はマンションがメインターゲット

東京都市大学都市生活学部教授
横浜国立大学名誉教授
小林 重敬(工学博士)

日本の住宅政策は2006年に住生活基本法が成立して、大きく転換しました。それまで住宅政策の基になっていたのは住宅建設計画法でした。戦後は住宅が量的に不足していたので、とにかく新しい住宅を建設することが必要でした。しかし住宅はすでに量的には充足しています。だから量的に増やすことから、良質な住宅、良質な住まい方を実現することへと住宅政策の目的が変わってきたのです。

この住生活基本法に基づいて国は住生活基本計画(全国計画)をつくり、自治体ごとにそれぞれの基本計画を立てております。またこの間に住宅宅地審議会等で論議がなされ、現在の住宅政策の具体的な枠組みがつくられてきました。その中には、「市場重視」と「ストック重視」という二つの基本的なテーマがあります。良質な住宅のストックをつくり、マーケットで循環させていくことで、質の低い住宅を淘汰していくという考え方です。

この場合、都市部での住宅政策のメインターゲットはマンションになります。近年は大都市での住宅供給の過半がマンションだからです。東京・港区で近年新規に供給されている住宅の実に90%以上がマンションです。現在は、極めて重要な住宅ストックであるマンションをターゲットに住宅政策を展開していく時代に入っているとも言えるでしょう。

住宅ストックの再生は、都市の居住地再生でもあります。ではどういう形で都市居住地を再生していくか。そこで重要になるのは、中古住宅市場の活性化、賃貸住宅市場の活性化、リフォーム市場の活性化という三つの課題です。

また、住宅を居住サービスという視点で考えることも必要です。住むということは、医療、教育、福祉、購買などさまざまなサービスとつながっています。したがって単なる入れ物としての箱だけを供給するのではなく、住むことに関わるサービスと一体的に供給すると考えるのです。もちろんなかには、そうしたサービスや交通の利便性は多少悪くても、自然あふれるところで暮らし、子育てをしたいという人もいます。本来はライフサイクルやライフスタイルに応じてそうした選択肢の中から自由に住まい方を選び、サイクルを回していくのが理想形でしょう。

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