今の日本は、災害時に弱者に寄り添えるか? 防災を学べば「何が足りないか」が見える

拡大
縮小

「すでに国士舘では150人の学生が防災士試験を受験し、140人が合格しています。合格率は93%です。防災士の資格があれば、就職の際にもメリットになるはず。実際、防災教育の講義を希望する学生は春期803人、秋期376人ほどを予定しています。また、今後は実地の防災訓練を近隣の住民と行うなど、地域にも貢献していきたいと考えています」

国士舘で防災教育のスタンダードをつくっていく

こうした防災教育を通じて、国士舘は学生に何を伝えようとしているのか。

国士舘大学
防災・救急救助総合研究所
山﨑 登 教授

「私が報道記者時代にわかったことは、防災を取材すると、社会のさまざまな側面を見たり、考えたりすることができるということでした。防災を勉強すれば、今の社会で何が足りないか。それがわかるのです。たとえば、いくら制度をつくっても、社会の中で実際に物事を進めてくれるリーダーがいなければ制度は機能しません。また、同じ規模の台風が起こったとして、日本とバングラデシュでは死者数や災害規模は、バングラデシュの方が大きいでしょう。災害対策は究極的には格差是正を考えなければ前に進まないのです。多くの高齢者が犠牲になる現状を知れば、今の社会に弱い人を助けるセーフティネットがきちんとあるかどうかを問うきっかけにもなります。普段から福祉や防災に一切関心のない社会や人は、いざというときに高齢者を助けることはできません。防災を学んでいけば、最終的には、今の社会が本当に弱者に寄り添ったものになっているのかを考えることにつながっていくのです」

今地方では少子高齢化の影響を受け、地域コミュニティの希薄化が進んでいる。そうした問題を、防災教育を通じて学び、地域の課題を解決するために、地域や行政、企業などと共に地域に貢献するリーダーを育成することが国士舘の目指す人材像だ。

「防災では、自らを守る“自助”、他者を助ける“共助”、そして、その二つを多角的に考え、“公助”につなげる努力が必要とされています。これは実は、江戸時代に米沢藩を立て直し、屈指の名君と言われた上杉鷹山が掲げた“自助”“互助”“扶助”と同じ意味なのです。この考えこそ、日本の地域社会の住民自治の原点です。防災とは最終的には人が人を助けること。そのためにも自分が住む地域社会にもっと関心を持ってほしいのです」

今後、国士舘の防災教育はどのように発展していくのだろうか。

「将来的には防災教育のスタンダードをつくっていきたいと思っています。考えてみれば、小、中、高と防災訓練をしてきて、大学にその受け皿がないのはおかしい。大学として防災にどう立ち向かうのか。防災は極めて実学的であり、社会に役立たなければ意味がありません。この国の防災レベルを引き上げるためにも、そのあり方をきちんと考える必要がある。そのためにも新しい防災文化をつくっていく努力を続けていきたいと考えています」

お問い合わせ
国士舘大学