中国のeconomic statecraftへの日本の戦略

インド太平洋を巡る経済競争のカギとは?

まずは、日本単独で、あるいは他国と協力をしながら、ADBのような国際機関との連携も視野に入れた上で、アジアへのインフラプロジェクトで中国と協力する姿勢を取るべきだ。実際、融資条件が不平等だという理由で中国資本を受入国が拒否するケースが増えてきている。日本は、中国が受入国に対して課す条件の中で、特に負担がかかるものを外していくように働きかけることができる。もし中国がこのような形で他国家と協力する気がないのであれば、その時点で日本は同じような考え方を持つ政府や国際機関と共に独自の提案をするべきだ。また、もし中国が自身のプロジェクトから日本を締め出したとしても、中国が整備し終わったインフラを使って日本企業が行う経済活動を拒むことはできない点も忘れてはならない。

重要なのは貿易よりも投資

グローバルストラテジスト、『「接続性」の地政学』〈原書房刊〉著者
パラグ・カンナ

日本企業の対アジア支援は、現状でもかなりのプレゼンスを誇っている。2011年から2016年の間、日本企業は東南アジアに対して年間平均200億ドルの投資をしてきており、日本のアジアにおける直接投資の50%以上がASEANの6ヶ国に集中している。また、BMI Researchのデータによると2000年代を通じて日本が投じてきたインフラ投資総額は2300億ドルなのに対し、中国は1550億ドルに留まっている。そして、ディスカッションでパラグ・カンナ氏(グローバルストラテジスト/『「接続性」の地政学』〈原書房刊〉著者)が指摘したように、中国と各国の貿易関連数字を見て心配する人が多いが、実は見るべきは投資の数字だ。すなわち、影響力がより長続きし、より強い二次的・三次的な波及効果があるという点を鑑みれば、貿易よりも投資の方が重要なのだ。

戦略国際問題研究所(CSIS)上級副所長
マイケル・グリーン

この波及効果の一例として挙げられるのが、まさに東南アジア地域における対日認識の良好さだろう。マイケル・グリーン(戦略国際問題研究所〈CSIS〉上級副所長)が指摘した通り、東南アジアの国民に対してどの国を好意的に見ているかを聞いた世論調査で、日本は大部分の国家で常に一位となっている。これを日本が活用できるソフトパワーとして認識すべきだ。

東南アジアに中国に代わる選択肢の提示を

また、各国政府は基本的に自分達の選択肢が多ければ多いほど良いと思うが、これはアジア諸国も例外ではない。アジア諸国は一方で中国資本を欲しながらも、過度な対中依存は避けたいと考えているのだ。アジア諸国は、日本・米国・オーストラリアといった「インド太平洋地域」の主要国が中国資本の受け入れに代わる提案をすることを求めている。これにより、受入国は中国と交渉をする上でのレバレッジを得ることになるからだ。最終的にどのプロジェクトが採択されるかは場合によるが、そもそも日本は関与をしなければ、地域におけるレバレッジも影響力も発揮できない。

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日本の「安全保障政策」に欠けている視点 「economic statecraft」とは何か