トヨタが見せた、「公共交通の未来形」 減っていく「地域の足」をどう維持するか

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超高齢社会の到来を受け、各地域では行政と地域住民が協力を図りながら、課題解決への対応策を急いでいる。そうした中、昨年11月、秋田県横手市はトヨタ自動車が開発した福祉車両(ウェルキャブ)を使って、地域住民によるミニバスの社会実験をスタートさせた。地域住民自らが運行を担い、移動に不便を感じている高齢者の交通手段を確保することが狙いだ。今、地域はどんな問題に直面し、新しい施策を講じようとしているのか。行政と地元住民たちとトヨタ自動車の取り組みをレポートする。

高齢者の交通手段確保が地方の喫緊の課題に

日本が本格的に超高齢社会を迎える「2025年問題」。厚生労働省によれば、戦後のベビーブームに生まれた団塊の世代が、2025年に75歳以上となり、後期高齢者の人口が日本全体の18%を超える。さらに、男性よりも女性の平均寿命が長いこともあり、特に高齢女性の一人暮らしは、年々増加する傾向にある。

そのため、クルマなしでは生活できない地方の周辺部に住む高齢女性にとっては、医療機関やスーパーへの日常的な外出にも大きな制約が生じ始めている。その一方で、地域住民の足であるはずの路線バスの廃止も進んでいるという現状がある。国土交通省によれば、全国のバス会社の約7割が赤字に陥っており、毎年約1万キロが廃止される状況にあるという。これから地方で増え続ける一人暮らしの高齢者に対し、日常生活の交通手段を確保するためにはどうすればいいのだろうか。

地域の公共交通を地域住民の手で運営

そうした中、新たな取り組みを始めているのが秋田県横手市だ。同市は昨年11月にトヨタ自動車が開発した福祉車両を使って、地域住民によるミニバスの社会実験をスタートさせた。その背景を横手市総合政策部次長である村田清和氏は次のように語る。

横手市総合政策部次長
村田 清和

「10年前から路線バスの廃止が進み、今では往時の3分の2ほどの状態です。そのため路線バスが廃止された地域では、市がバス会社に委託し市営バスを運営してきました。しかし、バス1便当たりの乗客は1.2人と利用頻度は少なく、継続性が問われていたのです」

横手市は東京23区よりも少し広いくらいの面積で、広く田畑が拡がる中に集落が点在している。市営バスの運行でも、それらをすべて結ぶバスルートはどうしても考えにくい。しかし、バス自体をサイズダウンさせてもコストは変わらず、ほかの事業者と組んでもコストは見合わない。

「そこで地域の公共交通を地域住民で支えていくことはできないかと考えたのです。地元に根付く独自の共助組織を活用して、地域の公共交通を自ら担ってもらう。いわば、経営の主体は市、運営の主体を地域住民にする。そうすれば地域の生活パターンに合った自由度の高い路線やダイヤの組み方ができ、コストも少なく持続性も高まる。ただ、実際に車両を用意しようにも予算を組むのは難しい。そんなときトヨタさんから声がかかったのです。通常のワゴンサイズなら一般のドライバーも運転できるし、細かい道にも入れる。こちらの要求する部分とぴたりと合った。まさに願ったり叶ったりでした」(村田氏)

高齢者の移動の自由を提供するトヨタの福祉車両
(ウェルキャブ)

トヨタでは、現在、高齢者などを介助するための福祉車両(ウェルキャブ)の開発に注力している。横手市に同シリーズの「ウェルジョイン」(7人乗り)を提供することで、乗降状況や乗り心地などさまざまなデータを蓄積し、高齢社会に対応したクルマづくりに生かす狙いがある。ウェルキャブの開発を手掛けてきたトヨタ自動車主査の中川茂氏はこう語る。

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